北東北旅行 第1日目

これまで、旅行先がランダムに決定する旅行商品として
JALのどこかにマイルを2回(2022/6/10-12、2022/11/3-6)
申し込んだことがありますが、
実は同様の商品がJR東日本にもあります。
それが「どこかにビューーン!」。
JR東日本の新幹線駅の中から4つの候補地が提示され、
JREポイントを使って申し込むとその中から行き先が決まるという、
まんまどこかにマイルの新幹線版です。
長距離通勤になった所為でJREポイントが貯まりまくったので、
試しに申し込んでみました。
提示された候補地はかみのやま温泉駅、新潟駅、秋田駅、二戸駅。
そして、最終的に選ばれた目的地は…


秋田駅でした。
内心、秋田駅は一番確率が低いのではないかと思っていたんですよ。
と言うのも、秋田駅はどこかにビューーン!で選ばれる中で
一番ポイント単価が高くなるお得な行き先だからなんですね
(通常は東京-秋田で18,020円、東京-新青森の17,670円より高い)。
となればどこかにビューーン!の利用者は狙いたがるはずで、
必然競争率も高くなって選ばれ難くなるのでは…
と考えていた訳です。


しかし、秋田市は東北の県庁所在地の中で
東京からの旅客輸送に於ける新幹線のシェアが最も低い市で、
秋田新幹線は利用者数が最も少ない新幹線の一つなので、
それを鑑みると空席を埋める為に秋田というのも妥当です。
まあ、そういう複雑なアルゴリズムは組まずに
単純に同様の確からしさで選んでいるだけかも知れませんが。


何だか秋田を嫌がっているような書き出しになってしまいましたが、
田舎大好き北国大好きの僕にとって秋田県は大好物です。
鉄道は既に乗り潰しているので、
今回はレンタカーを借りて巡ります。


明日以降の天気が微妙そうなので、
今日の晴天を最大限活かすべく寒風山へ。
男鹿半島の入口に鎮座する火山です。


寒風山からは八郎潟が見渡せます。
嘗ては琵琶湖に次いで日本第2位の大きさがあったものの、
昭和30年代に食糧増産と農家の次男三男の就職先確保を目的に
その大半が干拓された湖です。


そして、干拓によって生まれたのが大潟村。
日本で最後に、ゼロから陸地を造成して誕生した自治体です
(江戸時代まで遡ると愛知県の飛島村なども当てはまる)。


車が無いとアクセスすら儘ならない大潟村。
走ってみます。
干拓地とあって真っ直ぐで真っ平らな道路ばかりですね。


そんな中で貴重な起伏となっているのが大潟富士。
平成7年に築かれた人工山で、日本一の低さを売りにしています。


その標高は驚愕の0m。
盛り上がっているのに何故0m?と思うかも知れませんが、
干拓地故に周囲の土地が海抜ゼロメートル地帯なので
標高0mでもこのように山の体を成すことが出来るのです。
ちなみに、比高は富士山の1/1,000である3,776mmです。


あっと言う間に登頂。
登頂タイムは3″65でした。
周囲が真っ平らなのもあって標高0mでも眺めは割と良いです。


大潟富士は登頂記念証明書も発行してもらえるみたいですね。
剱岳(2020/9/20-21)ですらそんなの無かったのに…


そして、こちらはノーマークだったのですが
こんなオブジェもありました。
これが何を示しているものか分かりますか?


正解は北緯40°東経140°の地点。
経緯度交会点標示塔と名付けられています。
実は日本の国土の中で緯度も経度も10°の倍数になる地点はここだけ。
惜しいのは北緯30°東経130°の地点ですが、
これは口之島の東北東6.5kmの海上です。


が、実を言うと現在の定義では
北緯40°東経140°の地点はこのオブジェから約430m離れています。
これは北極点が動いたとかそういう話ではなく、
日本は平成14年まで日本測地系という基準で
緯度と経度を測定していたのですが、
これが現在は世界標準に合わせて世界測地系を用いているからです。


こちらも到達記念証を発行しているようです。
これで喜ぶのは地理オタクだけでは?という気もしますが。


記念証を貰うのは後にして、
今日は一先ず内陸部へと向かいます。


道の駅かみこあに。
8年振り(2016/10/10)の上小阿仁村です。
記念切符の回収だけしに寄りました。


道の駅ふたつい きみまちの里も。
小腹が空いたので魚屋さんの新じゃがいも揚げを買ってみました。
黒胡麻のアクセントが利いた甘辛めの衣と
新じゃがいもの相性が良くて美味しい。


国道7号を走っていてもあまり実感は湧かないのですが、
この辺りは米代川が蛇行していてそれなりに地形が険しいので
秋田自動車道最後の未開通区間になっています。


で、その秋田自動車道にほんのちょっとだけ乗ってみます。
この区間は路面に緑色の線が引かれていることで有名。
この線が何を指しているのか分かりますか?
正解は走行位置です。
対面通行区間は広く反対車線が見えている為に無意識に右へ寄り易く、
それ故に中央線のワイヤーロープへの接触事故が多発しています。
その為、走行位置の目安を示すこの緑線が引かれたのだとか。
ただ、右ハンドルの車の運転手の真下に来るように引かれているので
左ハンドル車だと却って中央に寄ってしまうので注意。


何はともあれ、大館能代空港にやって来ました。
もう帰るのかというとそういう訳ではなくて…


空港併設、というか空港に内包されている道の駅大館能代空港です。
空港に入っている道の駅はこことのと里山空港(2023/6/11)だけ。
そして、ここはのと里山空港のものよりも更に存在感が薄いです。
そして、肝心の記念切符は何処に…?


2階の空港事務所へ行けと言われたので上がってみましたが、
一般人が立ち入っても良さそうな場所には見えません。
こんなところに入って怒られないのか…?


本当にこんなところで記念切符を売っていました。
日本一分かり難い記念切符売り場では。


さて、秋田県内陸部に来たからにはあれを食べたいところ。
そう、比内地鶏です!
という訳で、大館市で比内地鶏の親子丼を頂きます。
焼き鳥屋らしく炭火で炙られた弾力ある比内地鶏が
とろとろの卵で綴じられて最高です。


あと、秋田県内陸部と言えば秋田犬も外せません。
5年前(2019/8/22)は到着時間が遅くて閉館していた
秋田犬の里に行きます。


日本犬で唯一の大型犬である秋田犬の保護や宣伝を行う施設で、
様々な秋田犬情報やグッズに溢れています。


そして、本物の秋田犬を見ることが出来ます。
ただ、日本犬の例に漏れず秋田犬も飼い主に対する忠誠心が強い、
裏を返すと飼い主以外に対する風当たりが強いので
触れ合うことは出来ません。
保険会社の調査[1]によると日本での犬種別賠償責任事故発生率では
次点のバーニーズ・マウンテン・ドッグに1.8倍の大差を付けて
ワースト1位(発生率3.7%)となっており、
のほほんとした見た目の割には結構神経を使う犬種です。
「秋田犬カフェ」が無いのはそういう理由です。


何故か柴犬もいました。
日本犬唯一の小型犬柴犬と
日本犬唯一の大型犬秋田犬が並ぶと
遠近法が狂うほどのサイズ差に驚きます。
なお、柴犬も飼い主以外には気難しい性格なので触れません。


忠犬ハチ公として世界的にも有名になった秋田犬。
実に可愛いですが実際に飼うとなると難しそうですね。


余談ですが、秋田犬の里には出身地を貼るパネルがあったのですが、
知多半島民の主張が強くて笑いました。
あと、渥美半島が静岡県に飲み込まれているのに
渥美半島民は特に修正しないのか…
というか、愛知県に対する解像度が低過ぎでは。


ちなみに、秋田犬の里の屋外には忠犬ハチ公繋がりで
嘗て渋谷駅ハチ公前広場に静態保存されていた
青ガエルこと東急5000系が展示されています。
更に右奥の山には犬の文字が…
と思ったら大文字ですね。
大文字焼きも犬文字焼きになっていたら面白かったのに。


一人で延々運転を続けるのは少し寂しい気がしなくもないので、
秋田犬の里で秋田犬ぬいぐるみを買って
この旅行中助手席に座らせることにしました。
可愛い。


秋田犬に癒されたら秋田県道2号で東へ向かいます。
県道に沿って走っているのは長木川と謎の線路。
JR奥羽本線が走っているのは北の国道7号沿いで、
JR花輪線が走っているのは南の国道103号沿い。
では、秋田県道2号に沿っているこの線路は何物か?


小坂鉄道の廃線跡です。
嘗て小坂鉱山から大館駅までを結んでいた
貨物鉄道路線(一時は旅客輸送も実施)で、
今ではレールバイクなどが走っています。


旅客輸送もやっていたということなら廃駅も見たい
ということで、茂内駅跡にやって来ました。
旅客輸送は平成6年に終了したとのことですが、
貨物鉄道としては平成21年まで営業していたので案外綺麗です。


しかし、雑草の勢いが旺盛で迂闊に近付けない…
東北の廃駅は薮が濃いような?
樺山駅(2023/9/22)の印象が残っているだけでしょうか。


裏から回り込んでみました。
貨物輸送に端を発しているだけあって
一切飾り気の無い駅舎です。


駅舎の中を覗くと時刻表というかダイヤグラムが残されていました。
末期は2往復/日だったようですね。
小坂→茂内間には登り急勾配がある為
この区間だけは三重連(機関車3台を連結した編成)で運転されていて、
茂内→小坂には重連用機関車の回送列車の筋が
細い黒線で引かれています。


雑草が茂まくった茂内駅。
…これを言いたいが為に撮った写真です。


あれ、雑草が繁茂した先に真新しい案内看板が立っている…
様子からしてすっかり放棄されたものと思っていましたが、
もう少ししたら刈り払いされたりするのでしょうか?
それとも、取り敢えず看板を立てただけで満足したパターン?


廃線跡巡りは程々にして、次は山へと分け入ります。
小坂町に何か面白いものは無いかと地図を精査していたら
面白そうなものを林道の先に見付けてしまったのです。
秋田県の山奥ということで熊は怖いですが、
車なら多分何とかなる…はず。


それなりに整備された林道を進みます。
とはいえ未舗装で薄暗くて、
自転車や徒歩では通りたくない雰囲気ですが…


そして、そもそもこの林道は一般車が立ち入って良いのかが
ぶっちゃけ良く分かりません。
「林道内は徐行運転して下さい」という看板があったかと思えば、
立入禁止の柵やチェーンがあったり…
ただ、柵やチェーンは全て退かされていて通れるようになっています。
ということは通って良いということ?
もしこれが先行車の仕業だとしたら、
こんな林道で鉢合わせになったりしたら嫌だな…


ああ!正にその恐れていた事態が発生してしまった!
しかも、最も恐れていた相手、
即ちこの林道の一番真っ当な利用者である林業関係者の工事車両です。
大慌てで離合可能な場所まで数百m後退して待機します。


確実に大目玉を喰らうと思っていましたが、
「この先は行けないよ」
と意外にも優しく諭されました。
結局この林道の立ち位置はどうなっているんだ…


とはいえ、離合した場所では転回出来るような余裕が無いので、
転回可能な場所まで進んだところ目的地に辿り着きました。
深緑の山奥で唯一木々が生えていないこの地点、
奥奥八九郎温泉です。


ボーリング調査によって湧き出たという温泉で、
二酸化炭素が豊富に噴き出している為に
天然のジャグジーと呼ばれることもあります。
ただ、その二酸化炭素に釣られて虻が集ってくるので、
今の季節だとあまり快適ではありません。
あと、熊も怖い…
数年前までは簀子や桶が置かれていたそうですが、
今では全て撤去されてしまっています。
臭いを嗅ぐに、鉄を豊富に含んだ泉質のようです。


幻の秘湯を拝めただけでも満足したので戻ります。
行きでは全部退かされていた柵やチェーンが設置されている…
先程擦れ違った林業関係者が閉めたのでしょうが、
夕方になって暗くなるから閉めたのか、
本来はこれが定位置なのか…
が、柵やチェーンがしてあっても
それを避ける超明瞭な轍があるので通ることは可能です。
完全閉鎖しようとまではしていないところを見るに、
事故が起きると大変なので出来れば入って欲しくないが、
とはいえ全面立入禁止にすると反発がありそうで嫌だ、
くらいの感じなのでしょうか。


ただ、そんなに危ない橋を渡らずとも
奥奥八九郎温泉の泉質を体験出来る場所が
林道入口のすぐ近くにあります。
こちらも特にこれと言った案内は出ておらず、
ただ畑と温室があるだけのように見えますが…


この温室こそが八九郎温泉です。


地元の野口集落の有志が農業用ビニールハウスや
市販のロッカーなどを持ち寄って作り上げたお手製の温泉。
その為、法律上の「公衆浴場」ではないのですが、
地元の方々のご厚意で部外者も入浴することが出来ます。
お気持ちを入れる箱があるのでしっかり寄進しておきましょう。


見たところ奥奥八九郎温泉と殆ど同じ泉質、
即ち鉄臭の強い炭酸泉のようです。
公衆浴場ではありませんが、成分表も掲示されていました。
シャワーなどは無いので手を足を浸けるだけにしようかと思いましたが、
あまりに良いお湯だったので結局全身浸かってしまいました。
源泉掛け流しで成分無調整なのに湯加減が最高過ぎる。
八九郎温泉でも一般人にとっては野湯味が感じられますし、
泉質もほぼ同じなのでこちらでも十分ですね。


なお、奥奥八九郎温泉ほどではないにしても
八九郎温泉も起伏のある未舗装路を走らないと到達出来ません。
覚悟しておきましょう。
あと、地元の方々に対する敬意は忘れずに。


未舗装路ばかりで神経を擦り減らしたので
舗装路の国道282号で落ち着き…を取り戻せない。
国道でこの有様なので、林道は言わずもがな。
この地下には東北自動車道が走っているので、
腕に自信の無い人はそちらを通りましょう。
個人的にはこれくらいの荒れ方は楽しいですが。


坂梨峠を越えて早くも秋田県を抜け、
そして僕が本州で一番好きな青森県に入ります。


ただ、国道7号の矢立峠を越えて一瞬秋田県に戻ります。
道の駅やたて峠で記念切符を回収します。
掲げられた建物名が大館矢立ハイツ?
まさかの道の駅とアパートの融合…?
と思いましたが、こんな山奥に集合住宅を造る需要は当然無く、
一風変わった命名のホテルでした。


再び青森県に入って道の駅いかりがせき津軽関の庄へ。
折角青森県に来たのだから、林檎の商品とか無いかな…


あった!
しかも、紅玉100%ジュースが1Lで540円!
やはり青森県は神。


という訳で、今夜の宿は大鰐温泉の温泉宿です。
某高級宿ではありませんが。

 

参考文献
[1] アニコム損害保険株式会社, 「ペット(犬)の賠償責任事故、保険金支払は平均10万円(対人)を超える!」, 2011.

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