オーシャン・ショア鉄道

AIが人類の仕事を奪う
みたいな言説が叫ばれて久しいですが、
実際には人類の仕事を奪ってくれるどころか
「AIがあるんだしこれくらい行けるよね?」
と仕事の強度が増すばかりです。
AI君もっと頑張ってくれ。


そんなギッチギチの1週間を終えて
今週もお待ち兼ねの土日がやって参りました。
こういう時は食と移動に限ります。
海辺の街Half Moon Bay(ハーフムーンベイ)で
ワッフルにコーヒーというアメリカンなブランチ。
いや、ワッフルってヨーロピアンか?


Half Moon BayはSanta Cruz(サンタクルス)と違い、
閑静な住宅街という雰囲気を受けます。
ここもまた有名な観光地という話ですが。


町名にもなっているHalf Moon Bayの浜は
資本主義の力学で入場料を要求してきたので、
隣のCowell Ranch Beach(コーウェル・ランチ・ビーチ)に来ました。


その名の通り、Ranch(牧場)の中の一本道を
海に向かって歩いていきます。
毎回言っていますがやっぱり北海道感が凄い。


置かれたトラクターが画になります。
贅沢を言えばトラクターじゃなくて
ディーゼル列車でも走っていたら最高だったんだけどな。


と思いつつ、何気無く道端の案内看板を見てみたら…
えっ、ここに鉄道が走っていたの!?
どうやら、Davenport(ダベンポート)にあった
あのOcean Shore Railroad(オーシャン・ショア鉄道)の片割れのようです。


トラクターの右にある農道、
これがOcean Shore Railroadの廃線跡のようです。
うーん、なだらかな地形だから言われてもピンと来ない…


こんな絶景の中を走っていた鉄道があったなんて…
20世紀初頭の米国を鉄道で旅したかった。


廃線跡に気を取られてしまいましたが、
当初の目的はあくまで砂浜なので、
浜に向かって海岸段丘から階段を下りていきます。


下りました。
この辺りの断崖はGoogleマップで
“Painted Wall”(塗装された壁)と案内されていますが、
草が生えている様子がpaintedなのでしょうか。


上からこんな感じに見えていた
カミソリ岩(僕が勝手に命名)に登れないかなと、
海岸線からアプローチしてみます。


うーん、思い切りオーバーハングしていて無理ですね。
大人しく撤退します。

さて、思いがけず廃線の存在を知ってしまって
心が完全にそちらに捉われてしまいました。
Davenportみたいにもっと明らかな廃線跡は残っていないのかな…


色々調べてみた結果、
SR 1(カリフォルニア州道1号線)のTom Lantos Tunnels
(トム・ラントス・トンネル)付近に
廃線跡のある可能性が高いという判断に至ったので、
Maverickを飛ばしてやってきました。
Cowell Ranch Beachよりも更に高い海岸段丘ですね。
これだけ険しい地形ならトンネルや橋梁のような
大型構造物も望めそうです。


おや…?
鉄道遺構っぽくはないですが、
何やら謎の人工物が岬の上に鎮座していますね。
近付いてみましょう。


これは…現代芸術?
みたいに見えますがそんなことはなくて、
太平洋戦争中に防衛の為に築かれた軍事観測所だそうです。
Devil’s Bunker(デビルズ・バンカー)と呼ばれているとか。


土台の岩が四方八方から浸食を受けていて
より一層現代芸術感が増しています。
あともう何十年かしたら根本から崩れてしまうのでしょうか。


廃線の件に話を戻して、
Ocean Shore Railroadの痕跡がありそうなのは
こちらの特に険しい断崖絶壁、
その名もDevil’s Slide(デビルズ・スライド)です。
この中を鉄道が走り抜けていたとは
俄かには信じ難いほど険しい地形ですが…


Ocean Shore Railroadとほぼ並走する経路を走るSR 1は
現在このDevil’s Slideを前述のTom Lantos Tunnelsでパスしています。
土木工学的にはそれが至極真っ当な選択でしょう。


しかし、Ocean Shore Railroadと
その路盤を一部転用していたSR 1の旧道は地下に潜ることなく
このDevil’s Slideに真っ向から勝負を挑んでいました。
現在では遊歩道化されているので歩いてみます。


Tom Lantos Tunnelsが開通した2013年までは
現役のSR 1だったこともあって、
現役さながらの綺麗な道です。
廃線跡にしては些か勾配がキツい気がしないでもないですが…
しかしながら、今歩いているこの遊歩道以外に
それらしきラインを見出せるかと問われると答えに窮するので、
消去法的にやはりこの道ということになるでしょうか。


おぉっと!?
流石にこれは看過出来ない急坂だぞ!
いきなり何かを思い出したように登り始めました。


その勾配たるや実に9%。
鉄道でお馴染みの単位なら90‰で、
歯車やケーブルを用いない粘着式鉄道としては限界に近い数値です。
況してやOcean Shore Railroadは
登坂力の弱い蒸気機関車牽引だったそうなので、
この線形には明らかに違和感を覚えます。


ここがDevil’s Slideの核心部なんですね。
Slideとは「地滑り」の意。
Devil’s Slideは直訳で「悪魔の地滑り」、
もう少し日本の地名っぽく訳せば「鬼崩れ」とでもなるでしょうか。
それくらい酷い地滑り地形であると地名で警告している訳です。


推測するに、ここで致命的な地滑りが発生し、
それが原因で道が高巻きする形で付け直されたということなのでしょう。
何なら、Ocean Shore Railroadが廃止になった
直接的なきっかけはここの地滑りだったのかも知れません。
当然、廃線跡は発見出来る筈もなく…


Devil’s SlideからPedro Point(ペドロ・ポイント)の岬を遠望して
廃線跡が見えないか目を凝らしてみますが…
うーん、横一文字に走る筋は見えるけど、
そういう地層とか断層なんだと言われてしまえばそうな気もするし、
かつ途中で途切れているような…
Monte Trigo(モンテトリーゴ)への道を思い出す。


Tom Lantos Tunnelsの北側坑口に合流する形で
SR 1の旧道を転用した遊歩道は終了しました。
結局、ハッキリと廃線跡と分かるものが無かった…


一応、遊歩道の北側入口に
ここがOcean Shore Railroadの廃線跡であると示す看板はありました。
トンネルがあったんですね。
この地形なら納得というか、
無い方が不思議に思うくらいですが。


現地で得られる情報だけでは限界を感じたので、
スマホでざっと文献調査をしてみることに。
その結果判明したのが…

何と、あの地層とも断層とも付かない横筋が
本当にOcean Shore Railroadの廃線跡だったという事実です。
僕の目に狂いは無かったのか…
途中で線形が途切れているように見えるのは、
その位置でトンネルに潜っていたからということのようです
(上図マウスオーバー時の黄線が線路跡、橙線がトンネル坑口跡)。


転用可能な場所は面影が分からなくなるほど転用され、
転用不可能な場所は自然によって完膚無きまでに破壊されるという、
Ocean Shore Railroadは中々に難度の高い廃線跡でした。
歩いている他の人々は何故か海の方ばかり見ていて
廃線跡には興味が無いようですが。
海鳥でもいるのかな?


気になって周りの人に訊いてみたら、
鯨がいると教えてくれました。
こんなところにも来るんですね。


この後は大渋滞していたHalf Moon Bayの街を抜けて
えっちらおっちら家へと帰りました。

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