6:30、起床。
十勝オホーツク自動車道と国道242号で南下します。
この十勝オホーツク自動車道と国道242号の経路には
嘗て北海道唯一にして全国最長の第三セクター鉄道だった
北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線が走っており、
今も尚当時のレールや駅が残された場所があります。
ここは旧・分線駅の跡。
有り得ないくらい短いホームに駅名標が残されていますが、
実は現役当時からこんな様子だった訳ではなく
元々は4両くらい停まれそうな板張りホームでした。
それも廃止後に全て撤去されていましたが、
令和3年に「復活」して今の姿になっています。
では何故、約20年前の平成18年に廃止された鉄道の、
それも秘境駅と呼んで差し支えない駅を復活させたのか?
その答は陸別町中心部にあります。
陸別町は大雪山と阿寒岳の間にある盆地にある町で、
その地理的条件から冬は非常に厳しく冷え込むことで有名で、
日本一寒い町を標榜しています。
幌加内町と美深町も言ってなかったっけ?と思うところですが、
陸別町の論理は
「アメダスでの1〜2月の平均最低気温が
富士山頂を除いて日本の全観測点の中で一番寒いetc.」
というものだそうです。
論文[1]まで投稿して主張しているので読んであげて下さい。
現在の気温は28℃あって普通に暑いですが。
ただ、これは陸別町に限った話ではなくて、
冷えやすく冷気が溜まりやすい地形というのは
裏を返すと温まりやすく熱気が籠りやすい地形でもあるので、
「極寒の町」の多くは夏が暑かったりします
(あのヤクーツクでも7月の平均最高気温は25.8℃ある)。
極寒繋がりで南極専用小型雪上車SM25Sも展示されていたり。
町には陸別町しばれ技術開発研究所なる施設もありますが、
国立極地研究所とは直接の関係は無いようです。
極寒談義は置いといて、ふるさと銀河線の話に戻ります。
陸別町はふるさと銀河線の丁度ど真ん中に位置し、
ふるさと銀河線が廃止されると
道内でも有数の鉄道空白地帯となってしまう為、
ふるさと銀河線に対する思いは並々ならぬものがありました
(現在はJR石北本線北見駅から北海道北見バスで1時間38分、
JR根室本線池田駅から十勝バスで1時間51分掛かる)。
その思い故か、道の駅オーロラタウン93りくべつの裏には
現役当時の設備と気動車がそっくりそのまま保存されています。
そして、ふるさと銀河線りくべつ鉄道を名乗って
残された設備を使って気動車の運転体験を行なっており、
最長で先程見た分線駅までの往復11.4kmも運転出来るのです!
ただ、初回からそこまで運転することは出来ず、
Lコース 2.5万円(0.5km間を往復)
→銀河コース 3.5万円(1.6km間を往復)
→新銀河コース 4.0万円(2.8km間を往復)
→分線コース 6.5万円(5.7km間を往復)
と段階を踏む必要がありますが。
セスナの体験訓練で当時275USD(今は300USD)だったのに、
気動車11.4kmの方が高いんだな…
2人乗りで1トン切りのセスナと違って
112人乗りで28トンある気動車では燃料消費量が桁違いなのでしょうか。
1日4人分の枠しかなくどの日も争奪戦になるこの運転体験。
これを予約出来たというのが今回オホーツクに来た理由です。
陸別町がオホーツクなのかどうか良く分かりませんが振興局の区分的には十勝に属するらしい。。
鉄オタなのに飛行機より後になってしまいましたが、
遂に本物の列車を運転します!
前のセスナの体験訓練もそうでしたが、
こういう運転体験を申し込む人は基本的に
シミュレータを散々やり込んでそれでも満足出来なくなって
最終的に本物に手を出す、という轍を踏んできている想定なのか、
指導員の方の説明は最小限で
実際の運転の時間を最大限取ってあげようという配慮を感じます。
しかし、ここで白状すると僕は鉄オタでありながら
電車でGO!すらまともにやったことがありません。
だって乗り鉄だし…
ただ、電車でGO!をやり込んでいたとして
その経験がどの程度役立つかは未知数です。
何故なら、ここで運転するのは電車ではなく気動車だからです。
すぐそうやって屁理屈を捏ねるからオタクは嫌われるんだぞ
とお叱りを受けそうですが、これは本当に違うんです。
ゲーセンで電車でGO!の筐体を
見たことのある方はお分かりだと思うのですが、
マスコン「マスターコントローラー」の略。
レバーやスイッチなど諸々のセット。の形がまるで異なっているんです。
電車でGO!のマスコンは1つのレバーを
前後に動かすワンハンドルタイプで、
手前に倒すと加速、奥に倒すと減速するというものでした。
ところが、このCR70形のマスコンはまずレバーが2つあり、
しかも動かす向きが前後ではなくヨー方向の回転です。
自動車で言えば左がアクセル用のレバー、
右がブレーキ用のレバーです。
で、後者のブレーキハンドルの操作が特に曲者で、
これは自動車のブレーキペダルのように
摩擦材(車輪に押し付ける部品)を直接的に動かすものではなく、
摩擦材に圧力を掛ける為の圧縮空気を送る空気弁を動かすもの。
上の写真の様に7時半の位置(重なり位置)にある時は圧を保ち、
9時の位置(ゆるめ位置)に持っていくと空気を解放して圧を下げ、
6時の位置(常用位置)に持っていくと圧縮空気が送り込まれて
徐々にブレーキ圧が上がっていきます。
つまり何を言いたいかと言うと、
ブレーキハンドルを回してから実際にブレーキが掛かり始めるのに
驚くほどのタイムラグがあるということです。
加えて28トンもの重量を持っているので慣性も尋常ではなく、
5秒先の未来を予知するような操作を求められます。
この他、ポイント切り替えも体験したり、
構内を10回弱往復してたっぷり運転させて頂きました。
(写真は次の人の運転体験の様子、
北見側はこの位置まで行かせてもらえる)。
鉄道の運転手って凄いんだな…と思いました(小並感)
ふるさと銀河線は未だ滅びず。
…幌比内なんて駅あったっけ?
調べてみたら、ドラマ「GTO」の撮影に使われた小道具だそうです。
駅は無いですが、幌美内という地名なら支笏湖畔にあるとか
(但し、読みは「ポロピナイ」)。
併設の道の駅オーロラタウン93りくべつで記念切符も購入。
月に2度しか入荷しないというりくべつ牛乳は売り切れでした。
ところで、「93」って何の数字なんですかね?
池田駅からのキロ程は77.4km、北見駅からは62.6kmだし、
華氏表示の最高気温(93°F≒34°C)…?
調べてみた感じ、旧・陸別駅が改築された年(1993年)が有力そうです。
2000年問題を誘発するのは止めろ。
無事に運転体験を終えて北海道に来た第一目的を果たしました。
ここからはロスタイムなので徒然なるままに巡っていきます。
とうきび畑の中にポツンと置かれた選挙ポスター掲示板。
国道242号から利別川を渡ったところなので
ここに掲示して誰が見るのでしょうか。
そんな上利別原野住所の字名。
法律上の地目は恐らく原野ではない。にあるこちらが目的地。
この一際立派に育った樹木の下に…
ありました!
こちらの廃屋です。
扉の建て付けは相当悪くなっていますが、
一応中に入ることが出来ます。
座り心地は最悪そうな、
家具というより芸術作品みたいな長椅子があったり、
屋根も床も一部崩壊していたり、
この廃屋が何なのかというと…
旧・薫別駅の待合所です。
「秘境駅」という言葉を世に広めた立役者である
牛山隆信氏の著書の表紙も飾ったことがある秘境駅でした。
それだけならただの廃駅跡ですが、
ここの特異なところは…
こんなボロボロになってもなお
誰かが管理を続けているらしいということです。
お気付きでしょうか、
カレンダーがちゃんと今月(2025年7月)のものになっていることに。
カレンダーだけでなく駅ノートも更新されています。
一歩間違えれば怪奇現象ですね。
プラットフォーム跡も無いかとちょっと探しましたが、
線路跡はこんな有様で全く分かりませんでした。
線路跡は北海道ちほく高原鉄道の所有物で
待合所跡は地元の人の持ち物とかそういうことなのでしょうか。
To be continued.
参考文献
[1] 空井猛寿ほか. 『日本一寒い町,北海道陸別 ―気象庁による2007年から2016年までの10年間の観測データに基づく―』. 天気 Vol.63 No.11 (2016), pp.27-35.
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