おはようございます。
船上での一夜が明け、
眠気覚ましに甲板に出てみると島が近付いていました。
トカラガチ勢ならシルエットだけでどの島か分かるはず。
島の殆どが噴火警戒区域に指定された火山島、諏訪之瀬島です。
前回も諏訪之瀬島で丁度起きた記憶があるので、
僕の睡眠リズムだと丁度諏訪之瀬島で起きるようですね。
ここは7年前(2023/2/6-7)に既に訪問しているので降りません。
次の寄港地は平島。
平らとは程遠い地形をしていますが、
名前の由来は平家が落ち延びてきたことです。
ここも降りません。
今回の目的地はこの島です。
諏訪之瀬島と同じく火山活動が活発で、
火山ガスにより一部の森が立ち枯れているこの島は…
9:30、悪石島に到着。
前回(2023/2/10)は海況悪化の為涙を呑んで上陸を諦めた悪石島に、
7年越しで遂に上陸しました!
このくらいの執念深さが無ければ離島オタクはやっていけない。
宿の人が車で迎えに来てくれていましたが、
15分程待って欲しいと言われたので港でぶらぶらします。
その15分間で島民の皆さんは何をするのかというと、
本土からコンテナで届いた荷物の仕分けです。
パッと見郵便局員のような人が居る訳ではなく
皆で協力しあってやっている様子。
Amazonもちゃんと届くんですね。
勿論、お急ぎ便や日時指定は不可能ですが。
皆さん心待ちにしていた荷物が届いてほくほく顔です。
おや、海外の人も居るな。
えっ、何この車!?
もしかしてあの外国から移住してきた人が持ち込んだの!?
ドイツのフォルクスワーゲン ビートル、
イギリスのローバー ミニ(2022/2/17)に並ぶ大衆車の金字塔、
フランスのシトロエン2CVです。
ということは、フランスから来た人なのでしょうか。
絶海の孤島でクラシックカーを走らせる…
まるで映画のワンシーンですね。
港に目を遣ると高速観光船ななしま2が停泊していました。
旅客定員12人のチャーター船です。
時間に余裕の無い人はこれをチャーターして来ることも出来ます。
但し、航続距離の都合上北は鹿児島港ではなく屋久島までですが。
荷物の仕分けが済んだようなので宿へ。
大勢の工事関係者が泊まることもあるのか
かなり広々とした間取りです。
この民宿の前には悪石島唯一だという自動販売機があります。
この立地なら価格も昔のまま…
と思いきや、きっちり消費税10%時代に対応しています。
宿は真の秘島らしく1泊3食付き(飲食店が存在しない)なので、
正午の昼食までまずは集落を散歩してみます。
集落内は自然発生した獣道をそのまま舗装したような道路が
何とも言えない角度で分岐・合流を繰り返しているので、
現在地が何処か非常に把握し難いです。
集落の端の空き地にあったボゼユネスコ登録記念施設。
宿の中にも仮面が飾ってありましたが、
悪石島はお盆にこの仮面を被った来訪神ボゼが現れて
赤土の付いた棍棒ボゼマラで女子供を小突くボゼ祭りで有名です。
日本離れしたその異様な様子は
ポリネシア文化との繋がりを指摘されることもあるとか。
悪石島のみならずトカラ列島を代表する行事として
お盆には「ボゼ特別便」フェリーが運航されるほどの人気があります。
このような唯一無二の観光資源を有する悪石島は
トカラ列島の中で最も観光客に人気な島の一つ
だと予想していたのですが、
実は逆に最も観光客の少ない島の一つで、
トカラ列島で最も小さく人口も最少の小宝島と
観光客数ワースト1、2を争っている有様だそうです[1]。
何故…
奇祭を脈々と受け継いでいるだけあって信仰心は深いのか、
人口81人の島に9社も神社があります。
島民9人につき1社あるのか。
ボゼって神道の範疇にあるんですかね?
小さな島にしては広々とした十島村立悪石島小中学校。
山海留学制度を実施しており、
国内の他の校区からここに「留学」することも出来ます。
ぶっちゃけ、下手な海外の日本人学校へ行くより
文化や環境の違いに衝撃を受けそう。
留学生達が暮らす悪石島寮。
先程のシトロエン2CVが停まっていたので
どうやら例のフランス人が管理人をしているようです。
離島で暮らすとなると心配になるのが医療体制。
7年前(2016/2/6)に訪れた十島村立諏訪之瀬島へき地診療所は
まともな診療が月2回、みたいな貼り紙があって衝撃的でしたが、
この十島村立悪石島へき地診療所は
土日祝日を除く平日の8:30〜17:15にちゃんと営業しているそうです。
十島村も暮らし易くなっているんですね。
こちらは村役場の出張所。
郵便局など様々な施設が集約されているようで、
島内随一の賑わいを見せています。
コイン精米機かと思いきや何とコインランドリーが!
そう言えば、諏訪之瀬島にもありましたね。
雨が多くて中々洗濯物が干せないとかでしょうか?
おや、ここにも自動販売機がありますね。
民宿の前のやつが唯一とかいうネット情報は何だったのか。
お隣はガソリンスタンド。
リッター幾らか気になるところですが、掲示されていません。
なお、ハイオク燃料はありません。
そして、ガソリンスタンドの更に隣にある
この真新しい建物は…
悪石島唯一の商店です。
悪石島に商店が存在しているということに驚いた。
万が一テント泊かつ食料を忘れたとしても、
餓死することは無さそうですね。
生野菜は玉ねぎしか置いていませんが。
何とお土産まで売っているじゃないか!
トカラ列島も発展したな…
デカデカと「悪」と書かれた有名な悪石島Tシャツもありましたが、
残念ながら丁度良いサイズは売り切れでした。
しかし、流石に食堂は無いので一旦宿に戻って昼食を摂ります。
野菜の貴重さが垣間見える一膳ですね。
この不安定な食料供給状況では
人に食事を提供することを主たる生業にはし難いんだろうな…
昼食を終えたら散策再開です。
悪石島も小島とはいえ徒歩で回り切るには大きいので
宿で車を借りることにしました。
集落を外れるとヤギの数が凄い。
東京大学地震研究所?
まさかここで母校の名を見ることがあろうとは。
中之島(2016/2/7-8)と宝島(2016/2/9)に気象庁の地震計がありますが、
その中間を補完しているのでしょうか?
地震研に入ったら悪石島出張とかもあったのかな…
まずは島の南東にある悪石島灯台へ。
車が通れそうで通れない微妙な刈り払いの道を歩きます。
思ったより急坂を登って到着。
地形を活かして灯火標高を稼いでいます。
ただ、悪石島は北東部に山が聳えているので
この位置に建てると北東方向の船からは全く見えないのですが、
その点は大丈夫なのでしょうか?
フェリーとしま以外の大体の船は南東側を通過するから良いのかな。
灯台の位置からは諏訪之瀬島が良く見えます。
ちなみに、諏訪之瀬島には灯台がありません。
火山が光るから構わないとかいう
ストロンボリ方式なのでしょうか?
改めて車に乗って島の果てを目指します。
道が怪しいなぁ…
ちなみに、村の観光案内では
「島内随一の眺望が楽しめる観光道路」[2]
とのことです。
脱輪等することなく村道の終点に到達。
ノンゼ岬という名の岬です。
最南端や最東端という訳ではありませんが、
道の終点の方が果て感があるので。
村道の名前はノンゼ岬線じゃないんですね。
村道小石浜線終点から振り返って見た悪石島。
ビロウ山が標高300m強とは思えぬ存在感を放っています。
ジャングルを藪漕ぎしないと頂上には辿り着けないんだろうな…
まだ歩道は続いているようなので極めてみます。
この温暖な気候で道の形が残っていることを鑑みると
誰かがそれなりの頻度で刈り払いしているようですが、
何か需要があるのでしょうか。
波で侵食されているのかかなり崩れやすいです。
下りたは良いけど蟻地獄のように登り返せないとかないよな…?
海岸まで下りました。
村道の名前からすると名前は小石浜だと思うのですが、
小石と呼ぶにはあまりにも大きな岩がゴロゴロしています。
当然遊泳は出来ません。
とすると、道は磯釣りをする釣り人用?
北の方を見るとパンクロージャーを思わせる
奇妙な形の岩が聳えていました。
御根神という名前の岩だそうです。
ネットに上がっている写真を見ると
あの特徴的な切り欠きが無いものばかりなので、
つい最近崩落したようです。
崩れやすい地質なんですね。
薮を掴んで無理矢理登り返します。
滑る!
お次は集落を通り過ぎてその先、
北西部にある悪石島最高峰の御岳を目指します。
中之島、諏訪之瀬島、平島の最高峰も同じく「御岳」ですが、
中之島の御岳は読みが「おんたけ」、
諏訪之瀬島と平島の御岳は「おたけ」、
ここ悪石島の御岳は「みたけ」と読むのだそうです。
そんなにちゃんと定まっているものなのか怪しい気もしますが。
緑豊かな山肌に刻まれた九十九折で
山頂直下の登山口を目指します。
この山は正直アプローチが9割です。
やっぱり道が荒れているな…
薮にバシバシ車体を叩かれながら登っていきます。
道端にアサギマダラがいました。
トカラ列島だと越冬出来るんですね。
車体に大きな傷を付けることなく
登山口の内閣府沖縄総合事務局悪石島無線中継所に到着。
防災無線の中継所だそうです。
無線中継所の金網の裏から入山します。
見た目は完全に不審者。
ちゃんと公式な案内看板に従ってのルートですからね?
うーむ、相変わらずの藪漕ぎ。
12月でこれって、夏に来たらどうなるんですかね?
何とロープが残置された難所もありました。
意外に険しい。
悪石島御岳(標高584.03m)登頂。
標高の有効桁数が多いのは一等三角点だからです。
大隅諸島と奄美群島を繋ぐ貴重な列島として
十島村の全有人島にはそれぞれ一等三角点が設置されています。
十島村のおおよそ中央に位置する悪石島最高峰の御岳からは
諏訪之瀬島と中之島に隠れる口之島を除くトカラ列島全島と、
北は屋久島、南は奄美大島も望むことが出来ます。
…天気に恵まれれば。
トカラ列島は温暖な海の只中に顔を出していて雨が多いこともあって
こう見えて日照時間が全国最低クラスなんですよね…
写真は何とか見えた平島(図中左)と臥蛇島(同右)です。
御岳山頂から集落方面。
トカラらしい人口密度の低さです。
夕方になってきたので急いで次に向かいます。
村役場が出している観光地図だと細線で描かれているけど、
中岳を回り込む林道大峰線の方が
さっきの九十九折の村道御岳線より大分走りやすいな。
御岳の麓にある自然遊歩道。
さっき藪漕ぎしたばかりですが、
500mの標高差でも植生はかなり違います。
こちらはビロウが非常に多いです。
トカラでは貴重な池。
ミナミイシガメという亀が棲息しているそうです。
確かに亀がいそうな澱み具合。
と、池は正直どうでも良くて、
お目当てはこちらです。
ただの落石防止柵に見える?
こちらは地熱で温まった砂の上で横になる砂蒸し風呂です。
同じ鹿児島県の指宿温泉のものが有名ですね。
こちらは指宿よりも地熱のエネルギーが大分強くて
あちらのように砂に埋まると大火傷するので、
砂の上にバスタオルを敷いてその上に寝転がります。
それでもかなり熱い。
誇張抜きで卵を置いておいたら温泉卵になりそうです。
砂蒸し風呂だけではなく普通の温泉もあります。
こちら湯泊温泉です。
冬の外気に曝されている砂であの温度だと
温泉は相当ヤバいのでは…?
いや、でも公衆浴場が熱過ぎるのは青森県とか東北地方の特徴か…?
熱ッッ!!
何と51℃の源泉掛け流しです。
茹で上がるって!
火山のエネルギーを持て余している感が凄い。
激熱温泉で登山の疲れを発散させたら、
夕陽が有名な岬で今日の締めにしたいと思います。
見えるかどうかは別として。
島の南西端の荷積岬にやって来ました。
ノンゼ岬の方にはひらが牧場という牧場がありましたが、
こちらにも大麦牧場という牧場がありました。
牛は岬が好きなんですかね?
夕焼けは…
雲の切れ間から一瞬見えたりするか…?
階段があるので海岸に降りてみます。
と思ったら、階段は途中で断絶していました。
何だこの罠。
歩きスマホしていたら転落死しそうですね。
海岸には降りられなかったので
岩壁に張り付いて日没時刻を待ちます。
沖合を通る船は磯釣り客向けの瀬渡し船でしょうか。
夕陽…は見られなかったけど、
夕焼けなら見られたかな?
例によって道中に街灯の類はほぼ無いので
真っ暗になる前に民宿に戻ります。
こちらが今日の夕食。
鍋敷きの代わりに榊なのか椿なのか
肉厚で照りの強い葉っぱが使われています。
南国っぽい雰囲気。
蒸かし芋をおまけしてくれてボリューム満点でした。
参考文献
[1] 十島村,「十島村過疎地域持続的発展計画(令和3年度~令和7年度)」, 2021.
[2] 十島村,「悪石島の観光情報 – 十島村観光・定住情報サイト」, 2023年12月アクセス.
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