ライス大学滞在第69日目。
1列車…
嘗ての上野発寝台特急北斗星札幌行き。
朝一番の東京発東海道新幹線のぞみ博多行き。
Транссибирская Магистраль(シベリア鉄道)
Владивосток(ウラジオストク)発
Россия(ロシア号)Москва(モスクワ)行き。
中国国鉄北京西発雷鋒号長沙行き
(長沙は毛沢東の出身地の近く)。
その鉄道を、延いてはその国を象徴する存在であり、
歴史上の重みも勘案して最も重要とされる列車、
それこそが1列車です。
では、米国の列車番号1番はどの列車に付与されているのか?
New Orleans Union Passenger Terminal
(ニューオーリンズ・ユニオン旅客ターミナル)。
New Orleans(ニューオーリンズ)を発着する
全ての旅客列車が集う総合駅です。
Unionを名乗っているのはその昔に
様々な鉄道会社が乗り入れていた時代の名残りですが、
現在はAmtrak(アムトラック、全米鉄道旅客輸送公社)が
全ての長距離旅客列車の運行を手掛けています。
駅舎内はこんな感じ。
意外と人が居ますね。
そして、これがこの駅の時刻表。
1日平均2.4本(毎日2本+週3本)です。
日本なら北海道でも滅多にお目に掛かれませんね。
但し、これは米国南部にしては相当に
「恵まれている」部類に入ることは強調せねばなりません。
ライス大学で誰に訊いても旅客列車に乗った人が居ない
どころか、そもそもAmtrakの存在を知らないのも
宜なるかなというものです。
今朝出発するのはLos Angeles(ロサンゼルス)行き
Sunset Limited(サンセット・リミテッド号)と
New York(ニューヨーク)行きCrescent(クレセント号)。
僕が乗るのは…
9:00発Sunset Limitedです!
これこそが米国の1列車。
殆どの大陸横断鉄道がChicago(シカゴ)止まりなのに対し、
唯一太平洋と大西洋を結ぶ真の大陸横断鉄道です。
嘗てはOrland, FL(フロリダ州オーランド)まで
走っていましたが、
Hurricane Katrina(ハリケーン・カトリーナ)の影響で
現在はNew Orleans止まりになっています。
実はこの列車はHouston(ヒューストン)も通っているので、
これに乗って帰ってみたいと思います。
何とも巨大な2階建て車両。
非電化でトンネルも無いからこそ為せる業です。
Coach Car(座席車)。
寝台にすると値段が跳ね上がるので座席にしました。
終点まで乗り通すなら2泊3日コースですが、
僕は今日中に降りる予定なので。
が、周りを見ていると3分の1くらいの乗客は
終点のLos Angelesまで座席車で乗り通すようです。
ただ、座席車とは言っても日本のそれとは大違いです。
足元が広過ぎてフットレストに届かない。
僕が短足なだけという説はありますが、
後ろのおばちゃんも
「信じられない!足が届かないわ!」
と言っていました。
横幅もアメリカンサイズでたっぷり、
そして、何故か肘掛けが付いていないので
余裕で横になって寝られます。
座席車でも案外乗り通せそうですね。
9:00ピッタリ…より数秒早く出発。
まあ、この列車に駆け込み乗車する人間は居ませんからね。
車内検札が終わったら列車内を散策してみます。
1列車らしくLounge Car(ラウンジ車)もあります。
天井まで広がる大きな車窓で
米国の雄大な景色を堪能出来ます。
まあ、New Orleans – Houston間では
車窓が楽しめる場所は無さそうですが。
2階建てで背が高いことによる弊害なのか、
カーブでかなり横に振られます。
Lounge Carの1階にあるSnack Bar(スナックバー)。
食堂車は予約制でお高いのですが、
ここで飲み物や軽食は購入出来ます。
メニューはこんな感じ。
これに加えてサンドイッチや飲み物(お酒含む)もあります。
でも、РЖД(ロシア国鉄)と違ってお土産は無いんですね…
朝食をまだ食べられていなかったので、
マフィンとアイスティーを頼んでみました。
このAmtrak柄の紙箱良いですね。
お土産に良いので折り畳んで持って帰ります。
…出発して20分も経たないうちに止まってしまった。
貨物列車の行き違い待ちと言っています。
そう、Amtrakの列車が遅れまくる最大の理由、
それは「Amtrak自身は線路を保有していない」ことです。
日本のJRとは真逆で、米国に於ける鉄道網は
そのほぼ全てが貨物鉄道によって保有されており、
Amtrakはその線路を借りて列車を走らせている存在。
旅客列車こそ目も当てられない惨状の米国ですが、
貨物列車は日本の120倍を超す輸送量(単位t・km)があります。
つまり、米国に於ける貨物に対する旅客の重要性は
日本に於けるそれと比べて3,200分の1未満と言える訳です。
旅客列車何ていうのは貨物列車様の合間を縫って
お情けで走らせて頂いている存在に過ぎないのです。
やっと再出発したと思ったらまた停車し、
三度目の正直で漸くMississippi Riverを渡ります。
Lounge Carから眺める鉄橋は迫力がありますね。
Mississippi Riverを渡ったところでまた停車。
20kmも走っていないのにもう3回も貨物の交換待ち…
走っている時間より停車している時間の方が長いのでは?
これが米国での1列車の扱い…
幸いLounge Carは中々快適なので研究を進めます。
Mississippi River(ミシシッピ川)沿いの路線から別れて
漸く特急らしい速度を出すようになりました。
11:50、Schriever駅(シュリーヴァー駅)に到着。
1駅目からして既に1時間20分も遅れているのだが…
とても1列車が停まる駅には見えませんね。
着くや否や発車してしまいました。
当然の流れとして遅延が回復するはずもなく、
2駅目のNew Iberia駅(ニューイベリア駅)には
1時間22分遅れの13:18に到着。
時刻表は1分刻みで設定されているけど、
果たして時刻表通りに運行されたことはあるのだろうか。
そろそろお腹が空いてきたので昼食にします。
ピザとスプライトというアメリカン過ぎる組み合わせ。
ピザは冷凍の一人前サイズです。
アメリカ人からしたら一口サイズにもならないのでは?
車掌や行商がホカホカのピロシキを売りに来たシベリア鉄道が恋しい。
3駅目のLafayette駅(ラファイエット駅)は
1時間24分遅れの13:48に到着。
ちょっとだけ車外に出る休憩時間が設けられました。
1時間29分遅れになって13:53に出発。
特に撮るものも無いので研究を進めます。
心地良い揺れと暖かさで眠くなってくる…
疲れたのでちょっと昼寝して目が覚めたら、
列車がピクリとも動いていないではありませんか。
もう次の駅に着いたのかな?
…また貨物列車の行き違い待ち!?
小一時間も待たされて漸く貨物列車が通り過ぎました。
17:03、遅延が3時間8分へと大幅に悪化して
Lake Charles駅(レイクチャールズ駅)に到着。
写真は、
「外の空気を吸いたい人は貴重品を持って降りてきてね」
的なことを言っていたので暫く停車するかと思って
揺れない間にお手洗いを済ませようと思ったら、
深呼吸1回分くらいですぐさま発車してしまって
完全に駅舎の写真を撮り逃した図です。
Lake Charles駅を出ると程無くして列車は
Lake Charles(チャールズ湖)を渡ります。
Lake Charlesに落ちる夕陽。
Sunset Limitedの名に相応しい車窓ですね。
それと同時に薄々思い始めました。
もしかして、今日中にHoustonまで着かないのでは…?
真っ暗になってしまう寸前で
Sabine River(サビーン川)を渡ってTexas(テキサス州)に入りました!
後はもうひたすら真っ暗なTexasを走ります。
18:24、Beaumont駅(ボーモント駅)に到着。
Houstonまでで最後の停車駅です。
暫く停車するようなので撮ってみた駅舎外観。
とても1列車が停まるような駅には見えませんね。
反対列車をやり過ごして18:38に出発。
この写真を撮っていたら置いていかれかけました。
Google Mapsに拠ればBeaumont駅の先は
US-90(国道90号)に沿って走ることになっていますが、
GPSの情報ではもっと北側を迂回しているように見えます。
…あれ?
この線路だとHouston駅(ヒューストン駅)を通らなくない?
まさか遅延し過ぎたから通過するとか言い出すつもりか!?
周りの乗客もざわついているぞ!?
と思ったら、スイッチバックし始めました。
客車列車でスイッチバックするのか…
どうやら、工事の影響で迂回路を通ったようです。
青がGoogleマップの示唆する正規経路で、
赤が今回取ったと思われる迂回路。
良く運休にしませんでしたね…
変なところで律儀です。
21:33、実に3時間15分遅れてHouston駅に到着。
じわじわ遅延が積み重なっているかと思いきや、
New Orleans – SchrieverとLafayette – Lake Charles以外は
割と時刻表に近い運転時間だったんですね。
この2区間がそれぞれ1時間半ずつも遅れているので、
だからと言って免罪符にはなりませんが。
Houston駅内部。
この人達は3時間以上前からずーっと待ち惚けを喰らっていたのだろうか…
米国の長距離列車に途中駅から乗るのは避けた方が良さそうですね。
そして、これが米国有数の大都市Houstonの玄関駅。
知多半田駅にも劣る規模です。
この駅を発着する旅客列車はSunset Limitedだけ。
つまり、この駅には週に3往復しか列車が来ないのです。
秘境駅も良いところですね。
大都会Houston。
それはつまり犯罪率も高いことを意味します。
New Orleansほどではないにしても、
こんな時間に出歩きたくはなかった…
ケチってはいられないのでLyftで車を呼びます。
…運転手が見付からない!?
結局、市バスと市電を乗り継いで帰ることに。
Downtown Transit Center電停
(ダウンタウン・トランジットセンター電停)では
挙動のおかしい人が何人か居て、
神経を尖らせて市電を待つ破目になりました。
8分をこんなに長く感じたのは久し振りだよ…
日本の鉄道というのは相当に優秀なもので、
日本人からすると色んな国の鉄道の鉄道は
「しょっちゅう遅延する」
という評価になりがちですが、
運が良かったのか、これまで乗った海外の鉄道は
如何にも遅れそうなロシアもタイもメキシコも、
全てほぼ時刻表通りの運行をしていました。
一番遅れた印象が残っているのはベトナムとドイツですが、
それでもベトナムは一晩走って1時間遅れ、
ドイツは運転打ち切りや発着ホームの変更が多いだけで
遅れそのものは30分かそこらでした。
それに引き換えこのAmtrakときたら…
景色を楽しむ為とかなら良いですが、
移動手段としては正直もう使いたくないですね…
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