(無題)

ライス大学滞在第53日目。

7:27、起床。
軽く朝食を済ませたらいよいよ出発です。
目指すはMustafaさんに
「Texas(テキサス州)で断トツに美しい」
と猛烈にオススメされ、Andrewさんにも
「あそこはまだ行ってないのかい?」
と煽られた、とある国立公園です。
その国立公園の最大の特長は、
米国本土48州にある国立公園の中で最も辺境の地にある
とまで言わしめるアクセスの悪さ。
Midland International Air&Space Port
(ミッドランド国際航空宇宙港)が最寄りの商業空港なのですが、
それでも223mi(359km)も離れています。
直線距離だとあのメキシコChihuahua(チワワ州)の
General Roberto Fierro Villalobos国際空港
(ヘネラル・ロベルト・フィエロ・ヴィラロボス国際空港)
の方が
ほんの少しだけ近いという場所で、
米墨国境の空白地帯となっています。

Odessa(オデッサ)からI-20(州間高速道路20号線)に乗り、
西進してMonahans(モナハンス)で下道に降りたら、
後はもうひたすら下道を南下します。
下道なのに75mph(約120km/h)制限で、
それでも隣町まで小一時間掛かるという狂気。
町と町の間には何一つありません。
自動運転が切望されるのも分かる。


やっと公園までの道程の4割程に達して
Fort Stockton(フォート・ストックトン)の町に着きました。
McDonald’s(マクドナルド)みたいな
チェーン店の類はほぼほぼ無いので、
飲食物の買い出しは個人商店で済ませます。
起き抜けで100mi弱(約160km)運転してきて眠いので、
治安の悪くなさそうな通りに停めて仮眠します。


仮眠を済ませたら南下再開です。
Fort Stocktonの次の町までは約60mi(約100km)。
その間には何もありません。
「何も無い」というのは文字通りの意味で、
大きな町が無いとか店が無いとかではなくて
本当に何一つありません。
いや、もしかしたらただの草原に見えて
実は牧場だったりするのかも知れませんが…
北海道なんて可愛いものですね。
75mphでさえ遅く感じます。

…気の所為かな。
何か、僕が通り過ぎるのを待ち構えていたかのように
警察のピックアップトラックが出てきて
追走してきているような…
思い当たる節があるならば75mph制限のところを
メーター読み85mphくらいで走っていたことくらいだけど、
こんな見通しの良くて車通りの少ない道で
10mphそこらのネズミ捕りなんかするものなのか…?


するのか…
というか、これかなりマズい状況なんじゃ…
J-1ビザの身分で交通違反をしたとなると
まさか強制送還なんてことには…
と、戦々恐々としていましたが、
「今回は警告(Warning)で済ませるから罰金は無いし、
違反点数も付かないから特に記録には残らない。
でも、この先でマラソン大会をやっているから
これからは十分気を付けて運転するように」
と言われました。


と書くとまるで口頭注意で終わったかのようですが、
実際は免許証を照会されて紙に署名もさせられました。
土地柄、不法入国とか密輸とかに関わっていないかを
照会していたのでしょうか…
渡された紙には
「特に罰則はありません、記録にも残りません」
という箇所にわざわざ下線が引かれています。
「対応が面倒だから一々問い合わせてくるなよ」
という意思表示でしょうか。

ところで、後から調べてみたら
・警察官が近付いてきた時に車から降りようとする
→逃げるか反抗すると思われて撃たれる
・ハンドルから手を離す
→武器を取り出すと思われて撃たれる
・鞄をゴソゴソ漁る
→同上で撃たれる
というNG行為を僕は全部やっていました。
よりによって全員銃所持のTexasで。
皆さんは絶対やらないように気を付けて下さい。
逆にそれくらいテンパっていたから
見兼ねてWarningにしてくれた可能性もあるのだろうか…?
何にせよ、制限速度は守るべきですね…
反省します…


国立公園手前の最後の町Marathon(マラソン)。
如何にもマラソン大会をやっていそうな名前ですね。
国立公園まではここから更に約70mi(約110km)もあるので、
給油を済ませておきます。
もうこの先には一軒も民家がありません。


実はこの町には鉄道が通っていたり。
残念ながらMarathonに旅客駅はありませんが
隣のAlpine(アルパイン)には停まる旅客列車があり、
Midland International Air&Space Portが
国立公園から223miも離れているのに対して
Alpine駅(アルパイン駅)ならたったの98mi(158km)です。
それなら鉄道を使えば良かったのでは?と言われそうですが、
運行ダイヤが余りにも不便過ぎる(3往復/週)ので諦めました。


Marathonからの70miは何も無いということは、
幾ら疲れていてもノンストップで走り抜ける他無いスパルタ仕様なのか?
と心配になるかも知れませんが、
一応Picnic Area(ピクニックエリア)という名の休憩所があります。
吹きっ晒しで自動販売機も無いスパルタ仕様ですが。


このPicnic Area、実は先客が居て、
さっきトラウマになったChevrolet(シボレー)の
ピックアップトラックが停まっています。
またしても警察…ではなく国境警備隊でした。
中米人っぽい見た目だと止められたりするんだろうか…


延々5時間も掛かって遂に入口に辿り着きました!
Big Bend National Park(ビッグベンド国立公園)です!
…が、コロナ禍の所為で入園ゲートに係員が居ません。
入園料が要るはずだけど入っちゃって良いんだよな…


しかし、ここは序の口に過ぎません。
Big Bend National Parkの面積は何と3,242km2
鳥取県並みの大きさがあるのです。
園内を移動するだけでもちょっとした旅行です。
人が居ないからって広範に指定し過ぎでは。


そんな広い園内で特に予告無く観光スポットが現れるものだから
気を抜いていると見落としてしまいそうです。
僕は実際見落として転回しました。


ここはFossil Discovery Exhibit(化石発見展示館)と言って
Big Bend National Parkで発掘された化石が展示されています。
残念ながら化石にはあまり興味が無いのでスルーします。


入口から更に走ること29mi(47km)、
漸くビジターセンターのあるPanther Junction
(パンサー・ジャンクション)に到着しました。
ここで入園料を払います。


が、ここもあくまで玄関口であって、
実際の観光スポットは更に奥にあります。
Big Bend National Parkの象徴的存在である
Chisos Mountains(チソス山地)を後ろに、
更に南東へと無人の荒野を走り続けます。


それにしても、良くぞこんなところに
立派な舗装路を通したものですね。
「立派な」というのは皮肉でも何でもなくて、
本当に素晴らしい路面状況です。
Houston(ヒューストン)近郊より遥かに良いような…


Panther Junctionから更に24mi(38km)、
遂にどん詰まりのBoquillas(ボキージャス)に到着しました。
ここからは炎天下を歩きます。
馬に乗って客引きしてくる人が居るので
もしかしたら馬に乗せてもらうことも出来るのかも知れませんが、
スペイン語だったので何を言っているか良く分かりませんでした。
まさか不法入国者…?


大きく蛇行しながら滔々と流れる濁流。
これこそ、メキシコ合衆国とTexasを別つ川、
メキシコ名Río Bravo(リオブラーボ川、ブラーボ川)こと
Rio Grande(リオグランデ川)です。
「大曲がり」を意味するBig Bendという名も、
この大河がこの地で大きく北へと進路を変えることに由来しています。


ロイヤルミルクティーみたいな色の泥水の向こうはメキシコです。
あれ、対岸にあるボートはまさか…
良く見ると木陰で監視している人も居ますね。


最近大雨でもあったのか、
地面がぐっちょぐちょになっています。
本来の経路が水没しているような…


足跡を辿って迂回路らしき道を行きます。
文字通りの茨の道だな…
灼熱の中泥に足を取られながら進みます。


どうにか泥沼地帯を抜けて乾燥した礫地帯に入りました。
と同時に、両側から絶壁が迫ってきます。
これこそBoquillas Canyon(ボキージャス渓谷)です。


あっと言う間に河原は絶壁に追いやられ、
道はへつるようになります。


この辺りの崖は岩塩なんですね。
この泥水に洗われた岩塩は食べたくありませんが…


遊歩道が川に飲み込まれて唐突に途切れてしまいました。
何故こんな場所で…
本来はもっと続いていたはずの道が
大雨でごっそり流されてしまったということでしょうか。


暑くて堪らず、水も飲み干してしまったので戻ります。
こう見ると急に絶壁の峡谷が終わるんですね。


あれ、こんなに何股にも道が枝分かれしていたっけ…?
来た時にこんな別れ道があった覚えが無いんだけど…
暑さで記憶が曖昧になっているのかな…
踏み跡の濃さからはどちらが正解のルートかが分からない…


堂々巡りを繰り返し、泥に足を取られて
二重の意味で泥沼に嵌まってしまいました。
こんなところで遭難なんて洒落にならない…


往路とは全く違う経路でしたが、
水溜りの際ギリギリを蟹歩きして
どうにか見覚えのある場所まで戻って来ることに成功しました。
こんなに危険な国立公園だとは…
旅行本に「1ガロンは水を持っていけ」と書かれていましたが、
ハッタリでは無かったんですね…
早く車に戻って水を飲みたい…


そんな時に目に飛び込んできた謎の段ボール。
「テキーラ!タコス!タマレ!川沿いで販売中!
貴方は川を渡らなくても大丈夫:)」
「貴方は」ってことはつまり…
あのボートはそういうことだったのか…


その他にも、民芸品の無人販売もありました。
これって朝晩の人目に付きにくい時間帯を見計らって
川を渡って売上金を回収しに来ているんですかね?


実は、米国側こそ無人地帯ながら
メキシコ側にはBoquillas del Carmen
(ボキージャス・デル・カルメン)という集落があり、
コロナ禍の影響で国境が閉鎖される以前は
多くのアメリカ人がちょっとしたメキシコ旅行を楽しんでいました。
住民にとってアメリカ人観光客の落とす外貨は
正に生命線なのでしょう。
しかし、国境警備隊に咎められないのかな…


ヘトヘトになりながら車に生還しました。
気温が100°Fを超えてる…
って、摂氏だと何度だ…(約38℃)
昨日HEBで買い込んだ1ガロンボトルも
がぶ飲みせざるを得ません。
カローラの冷房をガンガンに効かせて
車内を体温以下の温度にまで下げたら出発です。


うおっ、道路にヘビが!
こんな危険生物がうようよしている薮を
さっきまで彷徨っていたのか…


ロバもいました。
メキシコ人が放し飼いにしていたりするのでしょうか?


まだまだ全然巡れていませんが、
まだ明日もあるので今日のところは公園を離れて宿に向かいます。
とても一日で周り切れる広さではないので、
入園券も1週間有効になっています。
流石に1週間は居られませんが。


入る時は空港から一番近い北口から入園しましたが、
出るのは集落が一番近い西口からです。
ここはTerlingua(ターリングア)という町で、
一時期は鉱山で栄えたもののそのご没落したという
典型的な鉱山街です。
…標識にまでGhost Town(ゴーストタウン)と書かれていますね。
公共の標識にそんなことを書いてしまうということは
本当にもう誰も住んでいないのでしょうか?
いや、でも誰も居なかったら標識も立てないよな…
気になるので行ってみます。


ゴーストタウンにしてはやけに看板が立派なような…
普通、ゴーストタウンというのは
それこそ背筋が冷たくなるような
無情な空虚が場を支配しているものですが…


何だこの混雑は!
ここにある車は打ち棄てられた悲劇の車などではなく、
すぐそこにあるバーで楽しむ人達が停めているものです。
ゴーストタウンとは一体…
百鬼夜行かな?


“Ghost Town”はあまりにも混み過ぎていたので、
現在のTerlingua中心部まで戻って地元の食堂で夕食を取り、
昨日に引き続いてモーテルに投宿しました。
米国旅行って感じだなぁ…

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