日本最後の秘境 黒部川源流域 第1日目

日本最後の秘境―
地の果てまででは飽き足らず、海を埋め、山を削り、
余白まで開発され尽くした都市部での生活を余儀無くされる者にとって
何と甘美な響きを持つ言葉であろうか。

登山者の憧憬を集めるのは必ずしも山頂だけとは限りません。
勿論、剱岳槍ヶ岳のように何処から見てもそれと一目で分かり、
皆の目標と成り続けている名峰もありますが、
一方で麓からは決してその姿を拝むことが出来ない
「日本最後の秘境」として憧れの的になっている場所もあります。


富山駅前で会社の登山部の面子と合流し、
6:10発富山地鉄バス有峰線折立行きに乗車。


有料の有峰林道を走って奥へ奥へと向かいます。


7:45、折立バス停に到着。
この折立の時点で相当な山奥ですが、
ここから10時間以上歩かないと辿り着けない場所が存在します。
会社登山部今夏のガチ山行企画第一弾は
日本最後の秘境、黒部川源流域の縦走です!

一昨年は黒部峡谷鉄道の先、水平歩道を歩きましたが、
黒部川の源流はまだまだ遥かに奥の奥、
黒部ダムが湛える広大な黒部湖を過ぎて更に10km以上遡った先。
電源開発という比類無き圧力を以ってしてもなお
人間がおいそれと手を出せるような領域ではなく、
基本的にこの地域を1泊や2泊で巡ることは不可能です。

では、今回何日間を費やすつもりなのかというと
当初の計画段階で3泊4日、
直前で初日の行程が厳しいのではないかという話になって
急遽1泊増やして4泊5日です。
これだけの長期となると全期間好天というのはほぼ有り得ないので、
悪天候による停滞も加味して3日間の予備日も設けています。
人里離れ過ぎていてエスケープルート不測の事態が発生した場合に
行程を切り上げて下山する為の「脱出経路」。
も無きに等しいので
大峯奥駈道の時のような途中下山も原則出来ません。
ダージリントレッキングの3泊4日が最長だった自分にとって
文句無しに過去最長の山行となるはずです。


8:06、覚悟を決めていざ入山です!
今日の行程は短縮されたものの太郎平小屋までの6.2km。
ほぼ登り一本調子で累積標高は上昇1,038m、下降61mです。


暑いな…
折立登山口の時点で標高は1,353mあるので
猛暑日予想の下界よりは遥かに涼しいですが、
それでも今年の酷暑を中和しきるには至っていません。


あと、「折立」とか「太郎平」という地名を
何処かで耳にした気のする方もみえるかも知れませんが、
今年の黒部川源流域は熊の出没が例年に無く多発していて、
こういう樹林帯の中では休憩して行動食を食べる気になれません。
ただでさえ5日間の重い縦走装備を担ぎ上げているというのに
休憩の取り難さがまた疲労の蓄積を加速させます。


誰が付けたのかアラレちゃんのプレート。
折立登山口から三等三角点「青淵」までの
殆ど何の目印も無い急登区間の大凡中間に位置しています。
休憩適地ですが、飲水のみに留めて先へ。


9:52、三等三角点「青淵」に到着。
実はこの山域、コースタイム登山道の歩行時間目安(休憩含まず)。を確認する時の定番である
山と高原地図、YAMAP、ヤマレコの三者で
主張が大きく食い違っています。
例えば、折立→太郎平小屋までのコースタイムは順に
5時間00分、4時間14分、3時間45分となっており、
最も遅い山と高原地図と最も速いYAMAPとの間には
実に33%もの差が存在しているのです。
ここが最初の公式なチェックポイントなので、
我々の脚がどのコースタイムに近いのか推し量ってみると…
正味の歩行時間ではYAMAP等倍、
休憩込みでヤマレコ等倍くらいでしょうか。
そこいらの山なら休憩込みでYAMAP等倍に出来るところですが、
小屋泊とはいえ1週間近い縦走装備は重い。


三角点からは森林限界越えとなります。
風が吹き渡るようになると涼しいです。


積雪量を測ると思しきポール。
7mまで測れるようですが、
積雪期にここまで登ってきて測定する人が居るのでしょうか。


森林限界を越えたことにより
ベンチが屡々現れるようになります。
椹島でも見たキベリタテハがいますね。


更には登山道が過剰なまでに整備されるようになります。
登山口からではなく山小屋側から整備が進んでいるのでしょうか。


次なるチェックポイントである五光岩ベンチ。
五光岩が何を指しているのかは謎。
ひたすらの急登でこれといったチェックポイントが作れず、
取り敢えず名前を付けてみたのでしょうか。


雲の中へと続いていく道。
目指す場所の名前を考えるとこれも乙なものです。


チングルマに囲まれた木道。
結構疲れてきたけど、小屋はまだだろうか…


着きました!
12:48、太郎平小屋に到着。
まだ初日なのに結構疲れた…


この太郎平(太郎兵衛平)は黒部川源流域を囲む稜線の玄関口。
下界からは見ることすら叶わない山々が目前に広がっています。
今見えているこの雄大な景色の殆ど端から端までを
ここから4日間掛けて巡っていくと思うと、
武者震いなのか戦慄なのか身体が震えてきますね。


それはそれとして、場違いな赤い幟が主張しているように
この小屋は行者ニンニクの載った太郎ラーメンが名物なので、
かいた汗と消費したカロリーを補うべく喫します。
美味しい!


本来、太郎平のキャンプ指定地は
ここから20分歩いた薬師峠にあるのですが、
今は太郎平小屋の前に幕営しています。
そうです、太郎平キャンプ場は僅か5日前に
熊がテントを丸ごと強奪した事件を機に閉鎖されました。
黒部川源流域は何処も彼処も熊の巣窟みたいなものですが、
実際に襲われたとなると緊張感が違いますね…


そうこうしていたらガスってきたので中に入ります。


4人組でチェックインしたら4畳半の小部屋が与えられました。
4の倍数の人数でグループを組むとこういう時有利ですね。


17時丁度に夕食。
山小屋なのに昆布締めが出て驚きました。
流石は富山県の小屋…と言うべきなのか?
小屋まで荷揚げ出来るくらい保つんですね。
ご飯が進んで仕様が無い。


遂に始まった長期縦走。
果たして、我々は計画を完遂出来るのか…

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