東方遊島録 第5日目

最西端を極めたなら、東も目指したくなるのが人の性。
目指せ、最東端。

4:30、起床。
寝惚け眼を擦りながら空港へ向かいます。


早朝のBonriki国際空港(ボンリキ国際空港)。
お土産どころか軽食すら売っていない…
今から乗ろうとしている便はFlightradar24みたいな
世界中の飛行機のフライト情報を追跡出来るサイトでも
何故か捕捉することが出来なくて、
本当に実在しているのかその存在を疑問視していたのですが、
搭乗券が発券されたので実在しているようですね。


制限区域外に何も無かったので制限区域内に入ってみましたが、
余計に何もありませんでした。


今から乗るのはキリバスの国内線。
キリバスについての情報を調べると確実に
「残念ながらTarawa(タラワ)からの便は無い」
と書かれている行き先、
Line Islands(ライン諸島)です。
何故Tarawaからの便が無いとされていたのか?
そして、何故今はそれが存在しているのか?


まず、無いとされていた理由についてですが、
国内線を運航するAir Kiribati(エア・キリバス)は
短距離離発着に優れる小型のプロペラ機しか保有しておらず、
3,000km近く離れているLine Islandsまで飛べるような
大型機材を所有していないのです。
その為、TarawaのあるGilbert Islands(ギルバート諸島)から
Line Islandsへ行こうと思うと、
同じキリバス国内であるにも関わらず一旦国外に出て
フィジーのNadi(ナンディ)を経由せざるを得ませんでした。


ところが、2023年8月にNauru Airlines(ナウル航空)との提携により
Gilbert IslandsとLine Islandsを結ぶ直行便が誕生。
週1便ながら遂に両諸島が結ばれたのです。


…空港内に小型プロペラ機と
プライベートジェットしか見当たらないんだけど、
本当に結ばれたんだよね?
まさか搭乗口まで来ても尚存在を疑うことになろうとは…


やきもきしていたら、Nauru Airlinesのボーイング737が
ジェットエンジンの轟音を響かせて着陸してきました!


朝一の便なので夜間駐機しているのかと思っていましたが、
当日にON23便(INU 5:15発、TRW6:30着)として
Nauru国際空港(ナウル国際空港)から送り込みしているんですね。
もっと遡ればON2便(BNE 前日21:40発、INU 4:15着)で
Brisbane空港(ブリスベン空港)から送り込んでいるようです。
4年前(2020/2/9)は1週間の内木曜と土曜の2晩だけ
Nauru国際空港での夜間停泊がありましたが、
現行のダイヤではBrisbane空港かPalau国際空港(パラオ国際空港)の
どちらかでの夜間停泊になっています。
Nauru国際空港で停泊すると邪魔なことこの上無かったからな…


しかし、パイロットや整備士はTarawaに泊まっていたようです。
週に一度だけ出勤するパイロットってこと?


さっき停まっていたプロペラ機は先に離陸していきました。
乗客を乗せている様子が無かったけど、貨物便なんだろうか。
その後、8:00発ON123便に搭乗。
乗客は24人でした。
24人の為にボーイング737-800を何千kmも飛ばすのか…
この便はずば抜けて運賃が高いのですがそれも納得です
(中部-ハノイ(2014/3/23)より少し短いくらいの距離で
一番安い運賃でも1,136AUD=約12万円する)。


思った以上にちゃんとした機内食が出ました。
運航してくれるだけで100点満点の太平洋諸島内便で
これだけの機内サービスをしてくれるNauru Airlinesは神。
散々ネタにされているし僕もネタにしたナウルですが、
何だかんだ頑張っている国なんじゃないかと見直し始めています。
観光ビザの取り難さはどうにかして欲しいけど。
それも今は改善されていたりするのかな?


ちなみに、機内食はもう一回出ました。
4時間半のフライトで機内食2回はカロリーが高過ぎない?
流石は肥満率世界一の国(舌の根も乾かない内にネタにしていく)


ひたすらに青く溶け合う太平洋と空の中を行きます。
Eutan Tarawa(北タラワ)の伝承では空と海は元々一つで、
勇者が空を持ち上げたことによって両者が分かたれた
と言われているのも分かる気がします。
Gilbert IslandsとLine Islandsの間には
人口僅か40人のPhoenix Islands(フェニックス諸島)があるのですが、
何処にあるのか全く分かりませんでした。


あと、この辺りに世界で最も遅い標準時UTC-12.0hを採用している
Baker Island(ベーカー島)があるはずなのですが、
こちらも全然分かりませんでした。
米国領だから避けて飛んでいるのかな…


約4時間太平洋上を飛び続けて漸く島が見えてきました。
排他的経済水域の面積世界第13位の広さは伊達じゃない。


不思議な斑模様の島。
珊瑚礁で出来た島としては世界最大の島です。

(以降、ライン諸島時間UTC+14.0h)


14:45、Cassidy国際空港(キャシディ国際空港)に到着。
極東の日本より更に5時間も時差があり
世界で一番時間の進んでいる土地、
Kiritimati Island(クリスマス島、キリスィマスィ島)です!


国際日付変更線が変な形に出っ張っているところ
と言えば分かり易いでしょうか。
北極や南極と違って東西に極はありませんが、
最東端を冠するならここほど相応しい場所は無いでしょう。
Line Islandsにはもう少し東に位置する島もありますが、
有人島としてはここが最東端です。


嘗ては国際日付変更線の東にあって
世界で最も時間が遅れている土地の一つだったのですが、
国のど真ん中を国際日付変更線が貫いていると
不便な事この上無いということで、
1995年1月1日にGilbert Islandsに合わせる形で
Line IslandsとPhoenix Islandsは日付を変更。
これによりLine Islandsは世界で最も時間の進んだ土地になったのです。


Bonriki国際空港以上に何も無い国際空港。
でも、ターンテーブルはあるんだな…


しかし、国際空港の目の前が未舗装です。
ターンテーブルより前にこちらをどうにかするべきでは。


でもってガイドさんが迎えに来てくれていたのですが、
SUVで来ようとしたらタイヤがパンクしたので
代わりにトラックの荷台でも良いかと言われました。
日記のネタ的には美味しい展開。
ちなみに、ガイドさんはナウル人だとか。


もしかしてと思って確認してみたらこのトラック、
やっぱり愛知県から来ていました。
辺境の地に強いのは愛知県民だってはっきり分かんだね。


まずは宿にチェックインします。
ただのホテルにしてはやけに無骨な建物だなぁ
と思った人は鋭くて、
この建物は元々英国軍の宿舎だったものです。
それがホテルに改装されてキリバス国営の宿になり、
更にオーナーが変わって今に至るとか。


Kiritimati Islandの地図が壁に描かれていました。
南東の方が池沼が無くて住み易そうに見えますが、
実際には殆ど誰も住んでいません。
集落は北西部に集中しています。


London(ロンドン)にParis(パリ)、
それから何故か国名になってPoland(ポーランド)。
もともとKiritimati Islandは無人島で、
太平洋戦争中にここを軍事拠点として開発した
英国や米国の兵士が地名を適当に付けたのが始まり。
その所為でこんな安直な地名がそこかしこに存在し、
Googleマップでは面白がった欧米人が
クソみたいな大喜利レビューを付けています。
検索妨害になるから本当に止めて欲しい。


ちなみに、このホテルがある場所の地名は
この看板の下部に書かれている通りBanana(バナナ)。
バナナ味の商品の広告ではありません。


バナナアピールで小学校の看板も。
衝撃の事実として、こんな地名が付いているのに
Kiritimatiではバナナを育てていません。
英米軍は何を思ってこんな地名を付けたのか。
せめてCoconut(ココナッツ)とかでは。


Bananaの子供達。
Eutan Tarawaもそうでしたが、
キリバスの子供達はスレていなくて本当に純真です。
この純真さをどうかいつまでも保って欲しい。


Kiritimati Islandには幹線道路を走るバスがあるという話を聞き、
実際ところどころ電柱に”BUS STOP”の札が掛かっているのですが、
ガイドさん曰くこれはスクールバス用であって
一般の人が利用出来る公共交通機関は島内に無いそうです。


ちなみに、これがKiritimatiのスクールバス。
思ったより新そうな見た目。
ボンネットバスとかかと思った。


島の外周を走る幹線道路は一応舗装されています。
ただ、これもまた戦時中に造られたものを
騙し騙し使い続けているので、
あちこちガタガタになっています。
その所為で用意していたSUVがパンクしたとか。
また、珊瑚礁由来の砕石を用いている為非常に白いです。


と言った傍からなけなしの舗装路を外れて内陸部へ。
未舗装路の方が路面の凹凸が少ないような…


上空からも斑模様として見えていた礁湖を突っ切ります。
この先に民家は無いのですが…


とある小屋が建っています。
何をする為の小屋か予想出来ますか?


正解は製塩です。
この塩田で天日干しをし、小屋の中で煮詰めます。
昨日大雨があったそうで今日は作業していませんが…
Kiritimati Islandの貴重な産業の一つが製塩業で、
ここで作られた食塩は「クリスマス島の塩」として
海外へと輸出されています。
何故か分かりませんが、殆ど日本向けだそうです。


製塩工場から幹線道路まで戻ってきて
ガソリンスタンドで給油休憩。
ドラム缶から直移しではなくちゃんとした給油設備です。


ガソリンスタンドに併設されているのが
JMB Enterprises(JMBエンタープライズ)。
パッと見は町工場みたいな外観ですが…


中はコンビニになっています。
海外のガソリンスタンドあるあるですね。
食料品はやはり缶詰ばかりです。


冷蔵庫の中はこの有様。
唯一残っていた野菜製品は茸の搾菜でした。


そんな訳で、Kiritimatiでは自分で野菜を育てる人達も居ます。
ガイドさんに「農園を見てみたい?」と訊かれたので
見てみたいと答えたら民家に入っていきました。
ガイドさんと住民の方の対応を見るに、
特に事前にアポを取っていた訳でもなくて
思いつきで押し掛けたみたいです。
そんな田舎訪問系のテレビ番組みたいな…


タロイモやパパイヤ、ドラゴンフルーツなど
様々な野菜・果物を育てています。
タロイモとパパイヤはともかく
ドラゴンフルーツは自家消費用というよりは換金作物に見えますが、
どれも売り物にはしていないそうです。
物々交換に使ったりはしていそうな気がしますが。


お宅訪問のお礼を言ったら島の西部へと向かいます。


空港と島の中心街との間には緩衝地帯というか
謎の無人地帯が存在しているのですが、
曰くここは採水地になっていて
周辺は水質保護の為に居住が禁じられているそうです。
採水地の中でもかなり海岸寄りに採水塔が建てられていますが、
井戸水は内陸側の方が塩っぱいのだとか。
どういう理屈なのでしょうか。


幹線道路に出ました。
太陽光発電所や石油タンクなどが
中心都市の外縁に位置しているようです。
ここからは宅地が連続するようになります。


ネットでは話題にならないオリジナリティゼロ地名
Tennessee(テネシー)。
米軍兵士が付けたんでしょうね。


そして、幹線道路の終点(起点)にあるのが
Kiritimatiの中心都市London(ロンドン)です。
標識を撮り逃したのでLondonの地名が入った看板を取ってみましたが、
これだと英国のLondonに本部がある教会みたいにも見えますね…
尚、キリバス語ではLondonが訛って
Ronton(ロントン)とも呼んでいます。


これがKiritimatiの中心都市、Londonの街です。
大都会ですね。


大都会なのでこんなものもあります。
KITことKiribati Institute of Technology(キリバス工科大学)です。
USP(南太平洋大学)だけじゃなくて国独自の大学もあるんですね。


Londonの先端、Tabonteke Beach Park
(タボンテケ海浜公園)までやって来ました。
夕焼けのビーチを楽しみます。


箱庭感のある海浜公園ですね。
こういうの好きです。
ガイドさんに頼んで記念写真を撮ってもらいました。


砂浜に辿り着くまでにピョンピョン跳ねている様を
ガイドさんがこっそり撮っていました。
無駄に躍動感がある。


地元の子供達も遊んでいました。
どの子も本当に良い笑顔で心が洗われます。
何処とは言わないがキリバスの子の爪の垢を
煎じて飲んで欲しい国が山のようにある。


夕食は島で唯一だという食堂へ。
キリバスの人達はあまり外食をしないようですね。


何か地のものは無いかとメニューを精査した結果、
唯一「クリスマス」の名が付いていた
Xmas Fish & Chips(クリスマス・フィッシュ&チップス)を注文。
普通のフィッシュ&チップスとの違いは
スライスチーズが乗っていること、
衣がトンカツっぽいこと、
そして魚がマグロなことの3点でしょうか。
マグロはキリバスの主要な輸出品です。
そして、野菜の類が全然無い…


夕食を食べ終わったらとっぷりと日が暮れていたので、
ホテルへと戻ります。
揺れる車からは上手く撮れませんでしたが、
流石絶海の孤島なだけあって過去一二を争うくらい綺麗な星空でした。


町外れで見掛けたビリヤードに興じる人々。
そう言えば、Majuro(マジュロ)のスーパーマーケットにも
ビリヤード台が売っていたな…
ミクロネシアではビリヤードがメジャーな娯楽なのでしょうか?


ホテルに戻って来ると、裏庭で何やらパーティをしていました。
何やら皆で踊る様子を欧米人の宿泊客が見物しています。


と思っていたら、その中の一人が舞台(?)に招待されました。
実はこの人は5ヶ月もこのホテルに滞在していて、
今週Kiritimatiを発つので送別会をしているんだとか。
この後パーティが盛り上がってくると、
僕も隣の部屋の在フィジー米国大使館領事のお爺さんと一緒に
ダンスに強制参加させられました。
キリバス人も存外陽キャだな…

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