豪州旅行 第2日目

5:00、起床。
駅に向かいます。


日の出前のCairns駅(ケアンズ駅)。
ここはKuranda Scenic Railway(キュランダ高原列車)の
始発駅として有名ですが、
あれは8:30発と9:30発しかないので
こんな朝早くに来る必要はありません。
では一体何を待っているのか?


Savannahlander(サバンナランダー)です!
西武特急にも似た弾丸を彷彿とさせる銀白の列車。
2両編成の気動車ということでローカル感満々ですが、
実は4日間を掛けてQueensland(クイーンズランド州)内陸部、
ザ・豪州たるOutback(アウトバック)を巡る
Kuranda Scenic Railway以上の観光列車です。
しかし、週にたったの1本しか走っておらず、
公式サイトも絶妙に使い辛い仕様になっている為、
ネット上では殆ど情報が得られません。
だからこそどうしても乗りたかった!
他の乗客はオーストラリア人の老夫婦ばかりです。

ところでこの車両、何処か見覚えはありませんか?


そう、昨日Cairns Museum(ケアンズ博物館)で見た
昔のBrisbane(ブリスベン)-Cairns間観光列車の車両なのです!
白黒写真だった時代の車両って一体何年物なんだ…
日本で言えばSLが引っ張る客車の旅、みたいな感じでしょうか。


車内はこんな感じ。
シックな雰囲気は古き良き日の一等車を思い出させる…
と見せ掛けて天井はトタン屋根です。
この無骨な雰囲気がまた良い。


運転席と客席との間には一切仕切りがありません。
それどころか、運転席の隣の席は
「景色が良いから是非座ってくれよな!」
と公式にアナウンスするほど。
あまりにもおおらか過ぎる。


6:30にCairns駅を出発。


Cairns(ケアンズ)郊外のFreshwater駅(フレッシュウォーター駅)。
Kuranda Scenic Railwayのツアーによっては
ここから乗車するものもあります。
Savannahlanderは停まりません。


Freshwater駅を出ると九十九折を描いて山を登り始めます。
Kuranda Scenic Railwayがキュランダ「高原」列車と訳されるように、
この路線は登山鉄道と呼んでも差し支えない線形をしています。


大胆な切通しと幾つものトンネルで無理矢理登っていきます。
豪州は世界で最もなだらかな地形の大陸なので
こういう路線は極めて珍しいです。


現代になっても並走する道路が一本も存在しない
密林地帯を走る路線ですが、
昔は更に隔絶された立地で外界への連絡手段は何もありませんでした。
第5トンネルと第6トンネルの間では1973年に
落石で列車を足止めして金品を奪う強盗事件が発生し、
乗客が命辛々逃げ出して線路伝いに町まで助けを呼びに行ったのだとか。


そんな場所なのに落書きが…
線路を延々歩いてきたのでしょうか。


列車(か線路を歩くこと)でしか辿り着けない秘境駅、
Stoney Creek駅(ストーニー・クリーク駅)。
様子を見るに廃駅でしょうか。
Savannahlanderも停まりません。


但し、Stoney Creek駅のホームには停まりませんが、
その少し先で停車して下車も出来ます。
で、この場所というのが…


余部鉄橋(2015/8/17)並みに華奢な鉄橋の上です。
この鉄橋が渡っている渓谷こそStoney Creek。


Stoney Creek Waterfall(ストーニー・クリーク滝)で有名な渓谷です。
Kuranda Scenic Railway最大の見所として
宣材写真としても良く用いられているので、
見たことのある方も居るのではないでしょうか。


10分ほどでStoney Creekを後にします。
この辺りになるともう九十九折は終わり、
眼下に雄大な景色を望めるようになります。


最も長い第15トンネル。
長いと言っても日本基準では大したことありませんが。


Stoney Creek Waterfallと並ぶ沿線の見所、
Barron Falls駅(バロン滝駅)。
ここでも停車して滝を眺める…
はずだったのですが、今は水量が少なくて見応えがないとかで
帰路で見ることにするそうです。


確かに、水が全然流れていないな…
でも、この渇水が数日でどうにかなるものなのかな?


8:12、Kuranda駅(キュランダ駅)に到着。
Kuranda Scenic Railwayの終点です。
9:40に再出発するまで自由行動というようなことを言っています。
結構長いこと停まるんですね。
やっぱり観光地だからかな?


跨線橋の上から見たKuranda駅。
密林地帯の中に赤い屋根が良く映えます。


Barron River(バロン川)に出ました。
ボートツアーなどもあるようですが、
まだ朝が早いので何もやっていません。
そもそも、今の水量でボートを出せるのかという問題もありますが。


川とは反対側にある町にも行ってみます。
早朝だからかこちら側にも誰も居ませんね。
ちょっと散歩してみます。


Aborigines(アボリジニ)のお土産も買えると聞いたのですが、
やっぱりまだ開店前です。
8時半なんだし、少しくらい開いていてもと思ったけど…


まだまだ時間はあるけどどうしようかな…
取り敢えず、公園にでも行ってのんびりするか
何てSTと話していたら、
駅の方から車掌さんが歩いてきます。
気分転換の散歩かな?
「おいおい君達!もう列車が出るぞ!」
えっ。


9:40出発というのは聞き間違いで8:40出発だったようです。
道理で長いと思った…
駅から300mも離れていたのに探しに来てくれた車掌さんには
感謝してもしきれません。
「また会えて嬉しいよ、お若いの!」
と陽キャ豪州老人達から歓迎を受けました。
お恥ずかしい…


さあ、いよいよKuranda駅を出発です。
この先はKuranda Scenic Railwayが走ることの無い区間。
そう、旅客列車でこの先に乗り入れるのは
週1往復のこのSavannahlanderだけです。


あまりに列車本数が少ないからか、
軌道で犬の散歩をしている人も居るくらいです。
日本ではここに列車が走っているという情報自体
まず入手出来ません。


密林を抜けるとオーストラリアらしい平原になります。
Atherton tablelands(アサートン高原)です。
さっきまでの急勾配が嘘のようですね。


平原の中で停車したかと思ったら、
農家の家族がオレンジを渡してきました。
長閑ですね。


サトウキビ畑の中を走ります。
沿線のサトウキビ運搬がこの路線の存在意義の一つだとか。


Arriga Junction(アリガ分岐点)。
Tableland Sugar Mill(テーブルランド製糖工場)への
貨物支線が分岐しています。
Queenslandの新設製糖工場としては実に75年振り、
1998年に開業した新しい製糖工場だとか。
その割には線路が錆び錆びですね。
まあ、1998年って既に24年前だしな…


Mutchilba(マチルバ)で車掌さんが降りて
何やら配電盤みたいな箱の鍵を開けています。
中から取り出してきたのは…


棍棒みたいなスタフです。
スタフとは単線区間で列車の衝突を防ぐ為に
このスタフを持っている列車のみ通行を許可するという器具。
この箱にスタフが入っていなかったら
この先に走っている列車がいるということなので、
ここから先へ進入してはいけません。
日本だとこのスタフ閉塞式をまだ使っているのは
名鉄築港線(2013/3/6)と津軽鉄道(2018/7/30)だけです。


11:11、Dimbulah駅(ディンブラー駅)に到着。
嘗てはMt. Mulligan(マウント・マリガン)への
貨物支線が分岐していた駅です。
ここで10分ほど停車します。


駅の外に出ても良いらしいので
列車が視界に収まっている範疇で出歩いてみます。


わざわざ列車を停めるほどの規模には思えない
小さな田舎町ですが、
道中で最後のATMがある場所とのことなので
現金を調達するならここがラストチャンスです。


Savannahlanderを歓迎するような壁画もあります。
この町にとってみれば
観光客が立ち寄ってくれる数少ない機会ということでしょうか。
10分間だけですが。


Dimbulah駅を発つとそれはそれは揺れるようになります。
世界を見ればMolek(モレック2019/2/18-19)みたいな例もありますが、
まさか豪州でこんな鉄道を体験出来るとは思っていませんでした。


この辺りは州道とはかなり違う経路を取っていて、
辺り一帯無人の荒野です。
これこそ豪州の原風景、Outback(アウトバック)です!
周りの老夫婦達も
「これぞ本物のオーストラリアさ!
日本人なのにこんなところを選ぶなんて見る目があるな!」
と興奮気味です。
結構起伏があるので線路はかなり蛇行しています。
良く見るとこの写真では通ってきた線路が
手前の山肌に見えていますね。


周囲に何も人工物の無いLappa駅(ラッパ駅)で停車。
超弩級の秘境駅ですね。
いや、信号場と呼ぶべきなんだろうか。


嘗てはここからMt. Garnet(マウント・ガーネット)への
貨物支線が分岐していた名残なのか、
現在は何の変哲も無いただの途中駅にも関わらず
ここで閉塞区間が変わるようです。
貨物列車もほぼ皆無(少なくとも今日は一度もすれ違っていない)なのに
こんな場所で閉塞区間を分割する意味はあるんだろうか。


埃っぽい風を受けながら直走り、
13:25に今日の終着点であるAlmaden駅(アルマデン駅)に到着。


ツアー参加者の大半はここでミニバスに乗り換えて
良い感じのロッジへと向かうのですが、
そちらは僕等が予約した時にはもう埋まっていたので
我々はこの田舎町に留まります。


平屋建てのその名もズバリRailway Hotel(鉄道ホテル)。
映画のセットをそのまま持ってきたような風格ですね。
勿論Wi-Fiなんてありません。


昼食は冷たいサンドイッチとコカコーラ。
何処から運んできているんだろう…


何があるかは分かりませんが、
(というか、「何も無いよ」と明言されていますが、)
折角なので辺りを散策してみます。


右のChillagoe(チラゴー)へ向かう線路と
左のForsayth(フォーサイス)へ向かう線路が分かれています。
本来はChillagoe行きが本線ですが、
そちらは1993年以降列車が走っていません。


駅前(駅裏?)大通り。
Burke Developmental Road(バーク開発道路)と呼ばれ、
QueenslandのOutbackを1,035kmに渡って貫く
への字形の開発道路です。
途中540kmの未舗装区間は一切ガソリンスタンドが無いとか。
下手な車だと満タンにしてもガス欠になりそうだな…


Almadenの集落。
人口は数十人かそこらだとか。
どういう暮らしをしているんだろう…


小さな小さなAlmadenの町を出ると、
途端に舗装が終わってしまいます。
これは540kmに渡る件の未舗装区間ではありませんが、
このBurke Developmental Roadの
姿勢の一端が垣間見えますね。


Burke Developmental Roadを歩いていっても
次に何かが現れるのは30km以上先のChillagoeなので、
道路脇の岩でも見てみることにします。


岩の一部を髪に見立てていて上手いと思った落書き。
あと何十年かしたら壁画として観光地に出来そう。


そんなくだらない落書きで1枚使うくらいマジで何も無いので、
その辺の手頃な岩でボルダリングなどして遊びます。


一頻り岩遊びして満足したら、
Burke Developmental Roadに戻ります。
1週間に2度しか列車が通らない踏切。
何%の人がちゃんと停車するんだろうか。


School of Arts St.(芸術学科通り)とかいう
大仰な名前の割にはただの砂道な脇道。
何がどうSchool of Artsなんだろう…


帰りは線路を使ってみます。
SavannahlanderがAlmaden駅に鎮座している以上
ここを走る列車は現れないので安全です。
法律的にどうなんだ?という声もありそうですが、
Kurandaで犬の散歩をしている人が居たので
まあこれくらい列車が少なければセーフ…なのでしょう。


Almaden駅まで戻ってきました。
もう大分日が傾いていますね。


夕陽に輝くSavannahlanderのロゴ。
日没時が一番映えますね。


駅の周りも散策してみたら、
昔のCairns周辺の路線図を見付けました。
昔はこんなに沢山路線があったんですね。
まるで昭和の北海道や筑豊を見ているようだ…
これらの路線も全部鉱山から採掘された鉱石の輸送用なので、
状況は北海道や筑豊と同じです。


燃えるような空の薄暮時。
…本当に山火事で燃えている訳じゃないよね?
そう不安になるくらい鮮やかな赤です。
砂埃の所為でしょうか。
実は今核戦争が勃発していて都市部は既に消滅したものの、
ここは存在が忘れ去られていた所為で
戦禍を逃れて残されてしまった、
みたいなSF映画の導入に使えそうな光景です。


人工光が殆ど無いので星空もとても綺麗。
STと天体観測をしつつ、
Outbackの静かな夜を堪能しました。

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