さて、一昨日はまだチェックしていなかった
日本車メーカーということでスバルに乗りましたが、
国としてもまだ未チェックのところがあります。
アメリカ、ドイツ、イタリアは乗りましたが、
スポーツカー好きとしては外せないもう一つの国、
それは…
イギリスです。
フランス車は個人的にデザインが好きになれないのでNG
しかし、他と比較するとイギリス車は結構レアです。
アストンマーティンとかマクラーレンみたいな
貴族階級しか乗れない車を除けば、
一番有名なのは恐らくミニではないでしょうか。
「ああ、ミニって言う割にあんま小さくないあれね」
と思ったそこの貴方!
その新型の「ミニ」はBMW製です。
実は、イギリスの自動車メーカーは
労働党政権下で頻発したストや政府介入が祟って
現在ではほぼ全てが外資に吸収されてしまっています。
なので、れっきとしたイギリス車を求めるなら
最低でも90年代に遡る必要があります。
これこそが本家本元のミニ、ローバー ミニです!
ブリティッシュグリーンに輝くミニクーパー1.3i。
こんな旧車も借りられるカーシェアリングは素晴らしい。
1993年式です。
にしてはやけに古く見えるって?
それもそのはず、このローバーミニは
何と1959年に初代が発売されてから
一度もフルモデルチェンジしていないのです。
エンジンを引き継いで車体は時代に合わせた
スバルWRX STIとは次元が違います。
正に走る骨董品と言って良いでしょう。
63年前からタイムスリップしてきた車が
現代の車に交じるとどうなるか?
こうなります。
これこそ文字通りのミニ。
そもそも、あらゆる車が今より小さかった時代に
明確に「小さい車を造ろう」というコンセプトの下で
設計された車なのだから当然です。
現在新車で売っているBMWミニクーパーSと比べると、
全高は84mm低く、全幅は315mm狭く、
全長は829mm短くて、重さは550kg軽いです。
実際に目の当たりにするとまるで玩具です。
それだけコンパクトに造ってある訳ですから、
ごく平均的な日本人体型の僕が乗ってもこの有様。
膝の角度が鋭角になっています。
平均的イギリス人って僕より大分大きいはずでは…
しかし、それでいて後部座席とトランクはあります。
「4人乗りの乗用車」という概念を毀損せずに
極限まで余分を削ぎ落としたらこの形になるという、
シンプルイズベストを具現化したような車です。
ちなみに、ミッションは4速MTです。
4速…
ダッシュボードの計器から得られる情報は
車速、残燃料、水温、回転数のみ。
「運転中他に何を知るべきことがあると言うのだね?」
と言わんばかりの潔さです。
現代っ子からすると
「そこまでやるなら水温も要らなくない?」
とか思ってしまうかも知れませんが、
ミニはキチンと暖気運転(死語)をしないと
ミッションが全く繋がってくれないので必須です。
勿論、快適装備などという甘っちょろいものは
温度調整不可のエアコンを除いてありません。
ここで言う快適装備というのは
クルーズコントロールだの自動ブレーキだのではなく、
MTの変速を大いに助けるマルチコーンシンクロ、
更にはパワーステアリング(小さな力で回せるハンドル)や
パワーウィンドウ(スイッチで動かせる窓)といった、
現代人からすると装備という感覚さえ無いようなものです。
なので、ダブルクラッチでちゃんと回転数を合わせないと
ギアがガリガリ言って変速出来ないし、
5km/h以下では重過ぎてハンドルは切れないし、
窓の開け閉めはレバーをくるくる手回ししないといけません。
今の車の性能は素晴らしくて
たとえ運転手が未熟でも手厚いアシストをしてくれますが、
ミニは僕の運転技能が1ならキッカリ1の走りで応えてきます。
そんなミニを端的に表す言葉として有名なのが「ゴーカート感覚」。
一切の緩衝を入れず全てをド直球に運転手に伝えるのがミニです。
そんなミニを恐る恐る運転してみると…
これは…凄い!
これこそが運転という行為だったのかと目から鱗が落ちる思いです。
ゴーカート感覚という表現は伊達ではありません。
路面にある1cmの凹凸、車体に吹き付ける1m/sの風まで感じます。
(物理的にも)前のめりになって真剣に車と向き合って、
一対一で対話し続けることが要求されます。
静粛性などというものは皆無で、
窓を閉めていても外の人と普通に会話出来る防音性能で
足先の前数cmのところにエンジンが置いてあるものだから、
3000rpmを超えると有り得ないくらい五月蝿いです。
一方で2000rpmを下回ってしまうと
スティックシェイカーでも作動したのか?
というくらいステアリングが振動するので、
普通のMT車以上に回転数に気を配る必要があります。
が、4速MTなのでギア比がかなり離れており
40km/hくらいだと2速でも3速でもどっち付かずになるという。
そんなミニを駆って立石公園にやって来ました。
純イギリス車ですが富士山も合いますね。
晩年のミニは本国よりも寧ろ日本がメインターゲットだったとか。
その影響なのか、ミニを模した外観の日本車も数多く造られました。
ダイハツ ミラジーノとか。
気持ち良いのでそのまま相模湾沿いを走ります。
最近の高性能な車ではそうでもありませんが、
ミニだと渋滞は苦痛以外の何物でも無いですね…
平坦なのがせめてもの救いですが。
そう言えば、3年前の丁度この季節にも
先輩方とここをドライブしたな…
思い出して懐かしくなってしまったので、
3年前と同じお店で同じうずわ定食を頼んでみました。
やはりドライブして食べに来る海鮮は最高ですね。
前轍を踏むをまた帰れなくなってしまうので、
今回は伊東近辺の観光に留めます。
地図で見付けた汐吹崎へ。
結構豪快に潮を噴いていますね。
この穴の岬に立っていても振動が伝わってくるほどです。
潮が舞って車にはあまり良くなさそう…
ということで、汐吹崎は早々に引き上げて
今度はミニの真価を確かめるべく山へ向かいます。
坂道発進は嫌だからなるべく交通量が少ないと良いな…
うおおぉ、この熱海めぇー!
10%弱の急勾配で渋滞とはミニ乗りを殺しに来ていますね。
勿論、ヒルスタートアシストなど存在しないので
教習所で習った通りサイドブレーキを引きつつ半クラッチにして…
という操作を行う必要がある訳ですが、
ミニの貧弱なサイドブレーキでは
この急勾配で完全停止することすら出来ません。
サイドブレーキを引いていようが
素早く半クラッチ状態に移ることが要求されます。
日本でMT車が絶滅寸前な理由を痛いほど思い知らされますね…
しかも、よりによってこのタイミングで
何だか1速に入り難くなってきたのだが…
どうにか鬼の坂道発進特訓を抜けて
交通量の少ないあたみ梅ラインを走ります。
1.3Lのエンジンを積んでいるスポーツモデルのクーパー1.3iとはいえ、
53馬力の9.6kg・mは軽自動車以下。
本当に峠を登り切れるんだろうか?
と些か不安でしたが…
全く杞憂でしたね。
とにかく軽くて重心が低く、
尚且つ小さい分剛性がしっかりしているのか
急な山道でもかったるさを感じることは皆無ですし、
コーナーでも一切ふらつくことなく
ステアリングを切ったら切っただけ曲がります。
車体が小さいから車線内でラインを選べるのも楽しい。
そうなんです、冒頭に
「スポーツカー好きとしては外せない」
と銘打った通りこのミニクーパーはただの大衆車ではありません。
何と大衆車でありながら、
1964〜1967年にはモンテカルロラリーに於いて
あのポルシェを抑えて優勝した経験さえあるのです。
小粒の大衆車が金の力に物を言わせたスーパーカーを打ち破るなんて、
何とも日本人が好みそうな逸話じゃありませんか。
況して相手が憎き宿敵独仏となれば
当時のイギリス人の興奮は如何程のものだったでしょう。
そんな当時の熱狂に思いを馳せながら
十国峠ケーブルカーまでやって来ました。
以前、静岡県の鉄道は完全乗車したと言いましたが、
ケーブルカーも鉄道扱いするならば
ここがまだ未乗だと気付いてしまったのでやって来ました。
早速乗ります。
乗客は僕一人なので感染対策は万全ですね。
ということで、今度こそ静岡県の鉄道を完乗しました!
大井川鐵道末端の方がラスト感はありましたが、
向こうはラスボス、こちらは隠しボスということで…
十国峠は伊豆、相模、駿河、遠江、甲斐、
安房、上総、下総、武蔵、信濃の十の国が
峠の上から見渡せたことからその名が付いたとか。
最初の九つは良いとして信濃って何処に見えているんだ…?
理論上駿河と信濃の国境である赤石山脈は見えそうだけど、
それでも国境の駿河側しか見えていないのでは…
武蔵はしっかり見えます。
東京スカイツリー(図中青矢印)や東京タワー(同赤矢印)も見えますね。
こう見ると高さが全然違うな…
また、十国峠からは十国の他、
伊豆七島のうち御蔵島と八丈島を除く5島
(実は式根島も見えるので6島だが、
江戸時代以前は無人島だったので数に数えられていない)
も望むことが出来ます。
この写真に見えているのは伊豆大島。
三原山が冠雪しているというのは中々珍しいのでは。
来年度からは東京都勤務だから伊豆諸島へ行きまくるんだ…
絶景を貸切状態で楽しめましたが、
そろそろ横須賀市まで帰らないといけません。
気温が下がったからなのか何なのか、
いよいよ以って1速ギアが渋い…
10%くらいの確率でしか入らないのだが…
こんな状態で箱根峠を越えていくのは不安しかありませんが、
行かなければ帰れません。
下り一本調子の箱根新道でギア抜けなんかしたらあの世行きだな…
実際にはギア抜けすることはなく、
箱根峠自体は快走そのものでした。
車重が軽いからか箱根新道の急坂で3速に入れていても
余裕でエンジンブレーキがかかります。
フットブレーキを使う機会が無い。
しかし、ミニにとって真の関門は箱根峠を下りきった後の市街地です。
西湘バイパスで少しでも停車を減らそうと足掻きましたが、
巨悪鎌倉市の江ノ電沿線で停車させられまくりました。
これほど渋滞を憎んだことはありません。
…いや、後続車両からは発進に手間取りまくる僕が憎悪の対象か。
ほんの少しでも停車を減らそうと横浜横須賀道路に乗ったら、
高速運転で振動が強まったからか足元に謎の部品が落下してきて、
危うくアクセルペダルが踏まれっぱなしになりかけました。
色々罠が多過ぎる…
死にそうになりながらもどうにか帰着しました。
助かった…
ちなみに、燃費は13.7km/Lでした。
峠も走って渋滞もしまくってこれは強いですね。
やはり軽さは正義。
そんな訳で初めてのイギリス車ドライブ、というかミニドライブでした。
返却後は例によってオーナーの方と自動車談義。
曰く、ローバーミニは日本での現存台数が多く、
尚且つ本国イギリスのクラシックカー文化もあって
今でもあらゆるパーツが容易に入手出来るらしく、
旧車としては非常に維持がしやすいそうです。
勿論、不調や故障は日常茶飯事なので、
ある程度の整備は自分で行えることが条件にはなってきますが。
自動車というよりロードバイクとして捉えるべきだ、
と思ったホンダビートより更に「乗用車」から遠く、
最早ペットとして捉えるべき代物ですね。
1950年代に設計されて以来、41年間もの長きに渡って
そのままの姿で販売され続けたローバーミニ。
イギリスの自動車産業の低迷によって
新車開発の為の十分な予算が捻出出来なかったなどの
消極的な原因もありますが、
それだけでは60年以上経った今もなお
愛され続ける理由にはならないでしょう。
ゴーカート感覚という形容そのままの
何もかも素直で直球な操縦感。
自分の運転技能以上のパフォーマンスは一切発揮してくれない一方で
操縦した分にはキッチリ応えて一体感を感じさせる一台。
やはり名車だったのだと気付かされた一日でした。
やっぱり、僕はこういうダイレクトな車が好きだな…
脚注
※「ダブルクラッチ」
ギアを下げる際にニュートラルの状態で一旦クラッチペダルから足を離し、
アクセルペダルを踏んでエンジンの回転数を上げることにより
クラッチを繋ぎやすくする行為。
クラッチペダルを踏んだまま行うのはブリッピング、
クラッチペダルだけでなくブレーキペダルも踏みながら行うのは
ヒールアンドトゥ(右足のつま先でブレーキ、踵でアクセルを踏む)と呼ばれる。
※「スティックシェイカー」
飛行機が失速しそうになった時に操縦桿を振動させる機能。
すぐに対気速度を上げないと墜落することを知らせる。
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