(無題)

山がちな日本。
そんな日本には幾つもの有名な峠があります。
今日からは三連休。
天気も良さそうなので、
この前のリレーマラソンで発覚した体力の無さを克服すべく
真夏の峠越え合宿に挑みます。

4:30、起床。
死ぬほど眠い…
昨夜飲み会に行ったのは間違いだったか…?
ちょっと後悔しつつも気合で起きて
5:30発JR常磐線各停代々木上原行きに乗車。
西日暮里駅で5:59発JR京浜東北線
各停大船行きに乗り換えて上野駅へ。
関東地方の有名な峠と言ったら何処が思い浮かぶでしょうか。
箱根峠大垂水峠雁坂峠
否、峠越えなら国境の中の国境である
あそこを抜きにしては語れません。
という事で、6:15発JR高崎線普通高崎行きに乗り換え、
高崎駅で8:24発JR上越線普通水上行きに乗り換え。


9:18、後閑駅に到着。
どれだけ思い入れがあるんだと言われそうですが、
そうです、またしても群馬県です。
となれば目指すのは上信国境の碓氷峠…


ではなく、上越国境の三国峠です。
やはり、ここほど国境らしい国境は他に無いでしょう。
まだ7月上旬だというのに恐ろしく暑い空気を避けて
最初から容赦無く標高を稼いでいきます。
今回は2泊するとあって着替えも入れてきたら
リュックがパンパンになってしまいました。
もっと減らしてくるべきだったかな…


この辺りは古くから江戸と越後を結ぶ主街道とあって
今も多くの交通機関が新潟を目指して峠に挑んでいます。
僕が目指しているのは三国峠ですが、
他はJR上越線もJR上越新幹線も関越自動車道も
全て利根川に沿って谷川岳の下に潜り込んでいます。
国道291号も同じ方向に向かっていますが、こいつは…


唯一人孤独に三国峠を目指すのは国道17号。
東大生なら数学科と教養学部以外誰でも馴染みがある筈。
そう、あの本郷通りです。
標識に新潟までの距離が書かれている事に気付いていたでしょうか。
そして、この国道17号は自転車で関東から新潟へ
直行出来る事実上唯一の道路なのです。
「事実上」というのは、法律上ならば
前述の国道291号が清水峠を越えて柏崎市まで
自転車も通行可能な一般国道として指定されているからです。
この国道291号も面白いのですが、
自転車では絶対に峠越え出来ないので今回は無視。


あれ?
三国街道の案内が国道17号とは違う方向に延びているな…
道の駅もこの三国街道と示されている方向にあるようです。
暑過ぎて早くも喉がカラカラになっていたので、
道の駅へ行ってみる事に。
ところが、この道の駅へと向かう道がスノーシェッド付きのかなりの激坂。
本格的な峠道はまだ先だというのにいきなり体力を削られました。
まあ、ウォーミングアップと思えば…


坂を上りきった先には意外にも台地が開けていました。
その昔は須川宿と呼ばれた宿場町があったそうで、
嘗ては三国峠に挑む旅人の英気を養い、
一方で越後からの旅人の峠越えの苦労を労う町として
栄えたのであろう雰囲気が漂っています。


これがお目当の道の駅たくみの里。
道の駅だけでなくこの辺りの旧・須川宿一帯が
「たくみの里」として整備されており、
様々な体験施設などが軒を連ねています。


あまりに暑かったので、
道の駅のすぐ近くにあったイチゴ農園で
イチゴのかき氷を頼んでみました。
まだ出発から1時間ちょっとですが、暑いから仕方無い。
イチゴを贅沢に使用したソースはとても美味しかったです。


須川宿に寄っている間に
国道17号はいつの間にか赤谷川を渡って
谷の対岸へと逃げていたので、慌てて復帰します。
標識通り進んだらこんな道を通らされたのだが…
どうやら、中部北陸自然歩道の一部に迷い込んだようです。
この道を普通の車道と同じ太さで描くGoogleには悪意を感じる。


赤谷湖。
この畔に上毛側最後のコンビニがあります。
この先40km近くに渡ってコンビニが無いからか
普通のコンビニよりも少し大きめです。


来たぞ、異常気象時通行規制区間!
久し振りに見ました。
これが出ると峠道の中の峠道という感じですね。


そして、現世と決別する新三国大橋を過ぎると…


いよいよ始まりました、三国峠の核心部です。
片道だけでいろは坂の往復よりも多い
実に55ヶ所ものカーブがある峠道。
しかし、いろは坂に比べるとカーブ自体は緩く、
R=50m前後のものが主です。


とは言っても、それで嬉しいのはバイクや自動車だけで、
自転車の場合はR
三国峠らしき場所が見えてきました。
左前方にあるあの浅いV字形に窪んだところのようです。
あともう一踏ん張り!


着いたー!
ここが三国峠です!
思っていたほどにはキツくなかった…かも。
豪雪地帯の上越国境とあって
除雪ステーションが整備されています。


現在、老朽化が進んだ三国トンネルに代わって
新三国トンネルを掘っている最中で、
群馬県最深部の峠ながら賑わっています。
賑わっているという表現が適切かは分かりませんが。


で、その老朽化した三国トンネルというのがこれ。
あれ?坑門も広いし立派じゃない?


と思って入ってみたら…
ええ!?何この罠!?
広いと思った坑門はどうやらスノーシェッドで、
トンネル本体の坑口はそれより2mほども狭くなっています。
軽自動車が偶に通るくらいの峠ならともかく、
危険物を積載した大型トラックが行き交う峠でこのトンネルは…
当然路肩なんてものは無きに等しいので、
大型トラックが来ないタイミングを見計らって一気に駆け抜けました。


という事で新潟県突入です!
鉄道で訪れてもなお思いますが、
自転車だと余計その隔絶された地形が分かりますね…
勾配はそこまででもない代わりにとにかくカーブの多い群馬県側に対し、
直線的な急勾配の続く新潟県側の道を駆け下りていきます。


三国トンネルを抜けてすぐにある三国集落は
スキーリゾートで栄えた事もあり、
巨大なホテルやリゾートマンションが軒を連ねるという
峠の集落らしからぬ異様な様相を呈しています。
夏だからなのか人気が無く、余計に異様な雰囲気です。

三国峠を越えたんだから
これでもう後は街まで下っていくだけだと思ったのですが、
どうやら新潟県側はまだ峠が残っているようです。
豪雪地帯だから正攻法で峠を越えるのは難しいのか、
どの峠も頂上部には長いトンネルがあります。
その中の一つ、二居トンネルには入口に
「トンネルの幅が狭い為、
大型トラックが入口で一時停止する事があります。
追越禁止!」
という、主要国道としては信じがたい注意書きが。
うへぇ、路肩皆無も良いところだな…
地下水は滴っているし、路面はダートかというほどガタガタだし、
飛ばしてさっさと抜けてしま

!?

前輪があらぬ方向に滑り飛んだと認識したが早いか、
僕は滑りやすい泥の積もった二居トンネルの粗い路面を
ロードバイクの下敷きになりながら横滑りしていました。
ロードバイクが舗装に当たって立てている
カラカラという乾いた音がトンネルの中に響いているのを聞き、
このまま大型トラックが後ろから突っ込んできて死ぬんだろうか、
命が助かったら助かったで
骨折なんかしながら壊れたロードバイクを持って
街まで下りるのは面倒臭そうだなあ、
なんて他人事のように考えながら
横滑り運動が止まるのを待っていました。


幸か不幸か、死ぬ事はありませんでした。
転倒したのが偶々車が途切れたタイミングだった事、
左側面から転倒した為ギアや変速機が壊れなかった事、
パンパンだったリュックがエアバッグの役割を果たした事など
数々の不幸中の幸いが重なって、
肘と膝にそこそこの擦り傷を負ったのと、
ハンドルが歪んだだけで済みました。


しかし、助かったという事は
ここから下の街まで行かないといけないのか…!
調べてみると、最寄りの駅まで13kmもあるとの事。
幾ら骨折を免れたとはいえ、
負傷した状態でロードバイクを担いで13kmは厳しい…
悩んだ結果、ギアやチェーンに損傷は見られないので、
曲がったハンドルでどうにか操縦して走り下りる事に。
もしフレーム内部に亀裂が入っていて
走っている最中に折れたりしたら
今度こそあの世行き確定ですが、
どうせついさっき死にかけた命、
今更うだうだ御託を並べても仕方ありません。


徐行し、流血しながら下る事6km、
人の営みの感じられる道の駅みつまたまで下りてきました。
店員さんのご厚意で絆創膏を頂き、
取り敢えず止血する事が出来ました。
新潟県の人は優しい。


安心したら急にお腹が空いてきたので昼食。
流石は米どころ新潟県なだけあってご飯が美味しいです。
さて、ただお腹を満たすだけじゃなくて
この後どうするかを決めないとな…
大事を取って越後湯沢駅から輪行で帰って、
この後の行程を全て取り止めるか、或いは…


思ったよりも自転車へのダメージが少なそうだったので、
30kmほど離れた六日町まで行き、
そこにある自転車屋で応急修理してもらう事にしました。
折角新潟県まで来たのに日帰りではあまりに勿体ありません。
みなかみ町や湯沢町と違って
水田の中を一直線に貫く平坦な道と化した国道17号をひた走ります。
平坦だとそれはそれでメリハリが無くて精神的に辛い。


おにぎり屋かぁ…
米どころ魚沼だし美味しいんだろうなぁ…
でも、道の駅でさっき昼食を食べたばかりだしなぁ…


なのに、気付いたらふらふらっと入っていました。
何かもう怪我と疲れと暑さで
正常な判断が出来なくなっていますね。
でも、実際美味しかったので結果オーライ。


どうにかこうにか六日町まで辿り着きました。
連休で自転車屋が閉じていないか不安でしたが、
店の奥に居たご主人にお願いして
ハンドルの歪みを直してもらいました。
大した修理じゃなかったからとお代は無料。
やはり新潟県の人は優しい。


田中角栄像のある浦佐駅などを横目に、
六日町から更に下っていきます。
今夜の宿はまだまだ遠いのです。


小出駅付近から国道17号を外れて国道352号で東へ。
日没してしまった…


やばい、こんなに街灯の少ない道で暗くなったら
僕の貧弱なライトではとても走れない!
最後の力を振り絞ってペダルを漕ぎます。


着いたー!
奥只見の玄関口、折立温泉です!
色んな意味で長かった…
明日からどうするのかなど問題は山積みですが、
何にせよ生きて宿まで辿り着けたので
まずは温泉に浸かって疲れを癒してから寝る事にしました。

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