中米旅行第3日目。
Barranca del Cobre(銅峡谷)を巡ります。
4:18、起床。
眠いですが起きねばなりません。
5:00にタクシーが迎えに来て駅へと向かいます。
そう、駅。
何を隠そう、僕がこのChihuahua(チワワ)まで
わざわざ足を伸ばした理由は、
現在のメキシコに唯一残る旅客鉄道、
Ferrocarril Chihuahua Pacífico
(チワワ太平洋鉄道)に乗る為なのです!
どういう略し方なのかは良く分かりませんが、
地元の人は”Chepe”(シェペ)と呼んでいます。
駅構内はこんな感じ。
スナックの自動販売機はありますが、
逆に言うとそれしかないので、
飲み物なんかが欲しい時は
駅前に居る物売りから買うと良いです。
鉄道グッズを売っている人も居ます。
割としっかりした体裁のウェブサイトがあるので
乗車券はネットで購入出来る…
と見せ掛けて現地購入しか出来ないので窓口に並びます。
5:15に窓口が開いて無事切符を購入。
VISAのクレジットカードが使えました。
カードの機械に手が届かないので
どうやって暗証番号を入力するのか疑問でしたが、
まさかの暗証番号を伝えて
窓口の人が代わりに入力する方式でした。
時刻表と運賃表。
列車は1日に上下1本ずつだけ。
1等車と2等車があり、運賃は倍くらい違います。
ウェブサイトや地球の歩き方を見ると、
1等は急行列車なので所要時間が短い
かのような書き方がされていますが、
1等車と2等車は連結されているので
当然の事ながら所要時間は一切変わりません。
但し、2等車が連結されるのは週3回だけです。
そして今日月曜日は2等車が連結される日。
治安だの設備だの云々で
日本人の旅行記を見ると悉く1等車に乗っていますが、
ここは一つメキシコ人を信じて2等車に乗ります。
M$1,385(8,000円強)の差は大きい…
さあ、いよいよ乗車です!
普通、1等車は乗り易い位置にある気がするのですが、
改札を入った目の前は2等車で
1等車は端の方へ追いやられていました。
2等車の車内。
驚くほど綺麗です。
椅子はふかふかだし、エアコンも完備されています。
満席で切符が買えなかったらどうしようとか
あらぬ心配をしていましたが、
2等車は何処もガラガラです。
治安が悪そうな雰囲気も今のところありません。
マシンガンを背負った警備員は巡回していますが。
マシンガンが必要だなんて怖いと思うべきか、
マシンガンを持ってて頼もしいと思うべきか。
定刻通り6:00に出発。
夜が白み始めたChihuahuaの街を
そろそろと抜け出します。
踏切に遮断機が無い所為なのか
30km/hくらいの徐行運転です。
これはまたえらく時間が掛かりそうだな…
車両の連結部(デッキ)は窓が開くので
ここから顔を出す事も出来ます。
ただ、揺れが結構激しいのと窓枠が大きいので
物を落としたりしないように注意が必要です。
牧場の中を走る列車。
市街地を抜けて本調子になってきました。
標高は2,300mを超える高原地帯から
太平洋岸のLos Mochis(ロスモチス)まで、
653kmかけて繋いでいるこの鉄道。
右へ左へ、うねうねと曲がりながら標高を下げていきます。
2時間半掛けて最初の停車駅
Cuauhtémoc駅(クアウテモック駅)に到着。
駅やウェブサイトに掲示されている時刻表だと、
急行運転と各停運転の停車駅の差は
たった3駅しかないように見えますが、
実際には時刻表に載っていない
小さな乗降場に頻繁に停まります。
これは駅舎…なんだろうか。
途中に峠があるので一旦標高を上げます。
なだらかな川の畔に牧場が広がっていて
何処となくロシアが思い起こされます。
馬に乗って出迎えに来ている地元民。
ロシアというより中央アジア?
11:48、Creel駅(クリール駅)に到着。
Barranca del Cobre観光の拠点となっており、
ここで乗降する観光客も多く居ます。
僕も時間があればじっくり巡ってみたいところですが、
時間が無いので素通りします。
Creel駅を過ぎると高原から
山岳地帯へと様相が変わります。
トンネルあり、ループ線あり。
このFerrocarril Chihuahua Pacíficoは
世界有数の山岳路線として名を馳せているのです。
というか、車社会の南北アメリカで
今も生き長らえている鉄道路線は、
多かれ少なかれ山岳路線である事が殆どですが。
13:18、Divisadero駅(ディビサデロ駅)に到着。
ここで暫し観光停車するので下車してみます。
ホームには出店が犇めき合っています。
1等車には食堂車が連結されているのですが、
2等車にはそんな瀟洒なものはないので
ここで昼食を済ませます。
パンに肉じゃがのような具を入れた惣菜パン的なもので、
中々美味しかったです。
駅前の通りにも所狭しと
土産物屋が軒を連ねています。
旧ソ連圏(ウズベキスタン除く)並みに
客引きのやる気が無いのが良いですね。
そして、そんな通りを抜けると…
脚の竦むような大峡谷!
これがBarranca del Cobreです!
この展望台から川面までの標高差は
優に1,000mを超えるとか。
この崖っぷちに建つホテルもあるので、
時間とお金に余裕のある人は是非。
出発時に撮れていなかったので
この停車時間中に機関車も撮っておきます。
2017というのは2017年製って意味なのかな?
機関車を新造するくらい儲かっているのでしょうか。
…良く見たら、後ろの赤い機関車は
2021と書かれていましたが。
乗り遅れないよう早めに客車へ戻ります。
Divisadero駅の少し先で上下列車が行き違い。
もっと延々待たされるかと思いきや
数分で交換が終わって発車しました。
結構時間に正確なんですね。
ホームの有効長が全く足りていない
Posada Barrancas駅(ポサダ・バランカス駅)。
なるほど、Chihuahua駅では
ホームの端っこに見えた1等車だけど、
こういう駅では1等車だけがホームに掛かるんだな…
しかし、2等車が丸ごとドアカットされていますが、
2等車の乗客はどうやって降りれば良いのでしょうか。
心配していたら列車がゆっくり動いて、
今度は2等車をホームに合わせて停車しました。
2回停まってくれるんですね。
2等車に優しい。
名鉄常滑線も見習うべきでは。
San Rafael駅(サンラファエル駅)では
大勢の物売りが籠を抱えて売りにきました。
峡谷に暮らすタラウマラ族のようです。
列車停車時間内で値段交渉出来るような語学力は
スペイン語どころか英語でも怪しいので買えませんが。
深い山の中を幾つもの橋梁とトンネルで抜けます。
橋梁は欄干が一切無いので
窓から顔を出すと結構怖いです。
まあ、欄干があったところで
列車の重量を考えたら気休めにもなりませんが。
Bahuichivo駅(バウイチボ駅)を過ぎると、
列車は切り立った崖にへばりつくように
曲がりくねりながら下っていきます。
偶に下に線路が見えたかと思うと…
少し先で180°転回してその線路に戻ってきます。
ボスニア・ヘルツェゴビナが思い出されます。
これだけの鉄道を敷くのは並大抵の事ではなく、
1872年に計画が立てられてから1961年に全通するまで
実に90年もの歳月を要したそうです。
というか、1960年代ならとっくに
モータリゼーションが進んでいただろうに
計画は凍結されなかったんですね。
この辺りの景観は地元民からしても素晴らしいらしく、
デッキは外を眺めるメキシコ人で溢れています。
この路線が廃線を免れたのも
この景観の良さが一つにあるのでしょう。
ただひたすらに圧巻の一言です。
世界の大峡谷は得てして
「○○のグランドキャニオン」と呼ばれていますが、
ここは鉄道がある分、本家のグランドキャニオンより
遥かに上を行っていますね。
こういう断崖に穿ったトンネルって
どうやって測量、建設しているのかな…
素晴らしい景観に目を奪われていると、
一際目立つU字カーブを描いた橋が見えてきました。
あれこそFerrocarril Chihuahua Pacíficoのハイライト、
Témoris(テモリス)の大曲がりです!
この鉄道を紹介する際に
必ずと言って良いほど使われている橋の写真は、
ここで撮られたものです。
この鉄道随一の撮影スポットと言えるでしょう。
Los Mochis行きの列車の場合、
橋梁に差し掛かる前に直前のTémoris駅
(テモリス駅)で一旦停車するので、
慌てなくても見逃す事はありません。
ただ、デッキから写真を撮りたい場合は
Bahuichivo駅から構えておいた方が無難ですが。
¡Viva Ferrocarril Chihuahua Pacífico!
崖の中腹には鉄道の開通を讃える
記念碑が立てられていました。
あれを立てるのも一苦労では。
まだ暫くは峡谷を走ります。
不意に峡谷が大河へと流れを変えました。
この先はRío El Fuerte(エルフエルテ川)に沿って
最後のひとっ走りです。
…と言いつつ、時刻表上でも終点まで
まだ4時間以上を残しているのですが。
夕暮れ時の樹林帯を走ります。
標高が下がったので植生が大分変わりました。
路線中最長の橋梁、Puente Aguacaliente
(アグアカリエンテ橋梁)。
Aguacalienteって事は温泉?
温泉が湧いているのかな?
メキシコの大地に陽が沈む…
予想はしていましたが、
日没後は真っ暗で何も見えません。
小腹が空いたので軽食車両で軽くつまみます。
2等車から食堂車へは行けませんが、
軽食車はあるので飢え死ぬ事はありません。
さて、あとはもう終着駅に着くのを待つのみ。
着いて欲しいような、欲しくないような…
その理由の一つはあまりに素晴らしい鉄道だから
というのもあるにはあるのですが…
21:28、定刻ぴったりにLos Mochis駅(ロスモチス駅)に到着。
1分足りとも遅れませんでした。
が、真っ暗です。
メキシコの見知らぬ街に夜遅く放り出されるなんて…
不安しかありませんが、ここからはスピード勝負です。
駅前が乗客で賑わっている内に
タクシーを捕まえて宿に向かいます。
首尾良く相乗りタクシーに乗る事が出来ました。
何とかホテルに辿り着いて祝杯。
…ホテル併設のレストランに
お酒が置いていなかったので紅茶ですが。
Sopa de Arroz(お米のスープ)を頼んだ筈なのに
汁気ゼロのピラフが来たりしましたが、
普通に美味しかったので良しとします。
これで一山越した感があるな…
精神的にも、物理的にも。
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