(無題)

厳冬旅行第8日目。
凍て付くЯкутия(ヤクーチア)を巡ります。

7:00、起床。
久し振りに人間らしい時間に起きました。
軽めに朝食を済ませ、
足だけで計4個もカイロを仕込んで
ミッチミチに防寒対策を施して、
昨日申し込んだツアーの迎えが来たら出発します。
運転手1人にガイドが1人、
それにツアー客は僕等2人のみ。
車はトヨタのプレミオと、まるで家族旅行です。


Якутск(ヤクーツク)を出る前に、
まずは昨日行けなかった
Рынок Крестьянский(農民市場)に
ちょっと立ち寄ってもらいます。
一見ただの朝市に見えますが、
そこは極寒のЯкутск。


露店に並べられた魚が屹立しています。
-30℃の外気に晒されてカチコチに凍っているのです。
露店のおじさんは
「今日は暑いね!」
とか言っていましたが。


ただの倉庫もここでは冷凍庫です。
寧ろ凍らせたくないものはどうするんだろうか。
あと、夏は魚をどう保存しているかも
気になるところではあります。


市場を見終えたら、
いよいよЯкутскを脱してЯкутия、
即ちサハ共和国の核心へと歩を進めます。
こんな道でもちゃんと除雪されていますね。
ロシアの人口は日本と大して変わらないのに、
どうしてこんな広大な国土で
人海戦術的な行政を為し得るのだろう…


後部座席の窓からも写真を撮ろうとしましたが、
凍り付いていて全く駄目でした。
下手に触れたら手が張り付きそうなほど冷たいです。


樹氷に彩られた森林の道で
ちょっとだけ停車してもらって記念撮影。
よくぞまあこんなところに道を通したものだな…


途中の小さな集落の食堂で朝食。
パタゴニアとかナミビアでも思ったけど、
こういう辺境の地のドライブイン的集落って
どうやって生活しているんだろう…
トラックはバンバン通るから、
生活物資もついでに分けてもらうのかな?
ガイドさんに
「ここが最後の『暖かい』トイレだぞ~」
と言われたので行っておいたら、
便所がサウナの如く暑いです。
幾ら暖房しないと凍り付くとはいえやり過ぎでは。


いつしか道は未舗装となり、
凍土が夏に融けてしまった影響で
酷くデコボコになった道を進みます。


2度目のトイレ休憩。
トイレ(-35℃)
排泄したものは疎か、本体の方さえ凍りそうだな…


暫く走ると路肩の森林が突如無くなりました。
最大重量30t、制限速度30km/h、
駐停車禁止、車間距離70m…
これはもしや!


やはりавтозимник(アフトズィームニク)か!
автозимникとは、
極寒の冬期シベリアに於いて
カチンコチンに凍った川や湾を
そのまま車道化してしまった道の事。
日本語には存在しないロシアならではの概念ですね。
ここは正にЛена(レナ川)の真上。
凍った川の上を30tのトラックが
楽々走る事の出来る寒さ、推して知るべし。
氷の厚みは時に数mに達するそうです。
Лена(レナ川)は非常に澄んだ川なので
ちょっと雪を退けると
こんな美しい氷の道となります。


川岸は20m近い岩壁です。
このような厳しい地形に於いては
凍て付いた川は天然の快走路なのです。


何を思ったのかガイドのおじさんが
急に岩壁に向かって歩き出しました。
ほぼ誰も足を踏み入れていないのであろう雪は
恐ろしくふかふかで、
油断すると腰の辺りまで埋まってしまいそうです。


良く見ると岩に小さなトナカイが描かれていました。
古代から住んでいたヤクート人による壁画だそうです。
その時代にこの寒さを凌げたのか…


僕等は現代のコートを着込んでいても寒い!
急いで車に戻ります。
暖房が効いていて暖かい…


と安心したのも束の間、
おじさんはまた車を停めて岩壁に歩き出しました。
寒いー!


この穴はヤクート人の言い伝えで
潜ると健康になると言われているそうです。
ここまで来られる体力がある時点で既に健康なのでは。


急いで車に戻ります。
何故このСаха(サハ)で白い車にしたのだろうか。
何はともあれ、これであとは目的地まで一直線…


…ではなく、三度岩壁へ。


これはこの周辺で最も立派な壁画だとか。
この厳しい環境の中で数千年も残っているって、
一体何を使って描いたのだろう…
気温が低過ぎて最早頭が冴えるよりも
凍ってきたような感覚を覚えるので、
その答を考えるのは後回しにして車に戻ります。


Автозимникをひた走っていると、
Ленаの上に放牧されている牛がいました。
見るからに寒そう。


おじさんが手動のドリルで分厚い氷を刳り貫いた穴から
川の水が湧き上がってきて、
それを美味しそうに飲んでいます。
凍っていないという事は
少なくとも外気温より30℃は温かい訳で、
牛達にしてみたら白湯を飲んでいるような感覚
…なのでしょうか。
ちなみに、つい数日前に日本のテレビクルーが来て
冬のЛенаに飛び込むとかいう暴挙に出たそうで、
「お前らは飛び込まないのかい?」と振られました。
いや、乗りませんよ?


牛達を押し退けて
バキュームカーで水を汲むおじさんも現れました。
これが集落の飲み水になるのでしょうか。


ここまで川に沿ってЛенаの左岸をずっと走ってきましたが、
Тит-Ары(ティト=アリ)の集落で
Ленаを横切ります。
まるで南極のような景色だ…


着きました!
世界自然遺産Природный парк «Ленские Столбы»
(レナ石柱自然公園)です!
アナと雪の女王に出てくるエルザの城を彷彿とさせる
寒々しく荘厳な外観です。
この奇岩は冬と夏で100℃にもなる気温差が生んだのだとか。


管理人の詰所である山小屋ではライカがお出迎え。
このクソ寒いのに外でお昼寝とは逞しい。


山小屋で装備を整えたらライカと共に出発です。
と言っても、ライカはすぐに引き返していましたが。


目指すは一際目を惹くこの石柱の天辺。
勿論、ロッククライミングやアイスクライミングをする訳ではなく、
登山道が付けられています。


登山道としては大した道ではないのですが、
如何せん寒いです。
行動限界が15分と言われるこの気温の中で
果たして往復1時間半の登山を完遂出来るのか…


結構傾斜がきつくて汗をかいてしまいます。
全体としては勿論寒さを感じているのに
服の下は汗をかいているという状態。
何故プラスマイナスゼロにならないのか。


石柱の上と思しき台地状の場所に出ました。
樹氷が何とも美しい。


TKはここでも寝転んでいました。


石柱の突端に到着。
風が吹き荒んでいます。
上から俯瞰すると中々に高度感がありますね。


奥の方の石柱には十字架が立てられていました。
誰がどうやってあんなところに立てたのだろう…
あれ?でもロシア正教会の八端十字架じゃなくて
ラテン十字になっているな…


極寒ベンチ。
夏の間は滔々と流れるЛенаを眺める展望台なのでしょう。
今は座りたくありませんが。


「インスタ映えする写真が撮れるぞ!
カメラの連射を忘れるなよ!」
と言うと、ガイドのおじさんが魔法瓶を持って
雪の中に分け入り始めました。


天に向かってお湯を撒くおじさん。
この気温では、空中に放り出されたお湯は一瞬にして氷に…
なる予定だったそうですが、
大きな水滴はあまり凍っていません。
おじさん曰く、
「今日は暖かいからなぁ」
だそうです。
インスタ映えを取るか、凍傷しないのを取るか。


TKも挑戦。
体勢を崩して転んでいました。
この後は山小屋に戻って遅めの昼食。
馬のホルモンを炒めたものや
凍った馬肉などを黒パンに挟んでいただきます。
野菜はやっぱりタマネギだけです。
しかし、これが凄く美味しい。
ヤクーチアの山小屋でヤクート人達と卓を囲みながら
ヤクート料理を食べるというこの状況がそう感じさせているのかも知れません。
ロシア語ツアーだけあってガイドさんや現地の人達との距離が近く、
とても楽しかったです。
TKには感謝しかない。


この後は往路と同じ道で200km離れた
Якутскまで戻りました。
いやー、凄まじい世界だった。

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