島流し旅行第2日目。
日本で最も上陸が難しいと言われる島に挑戦します。
6:30、起床。
早朝大雨で一度目が覚めてしまいました。
今日はいよいよ本命のあの島に挑戦する日です。
それはともかくとして、
まずは朝の八丈島をちょっと巡ります。
昨日は南東の三原山を一周したので、
今度は北西の八丈富士へ。
八丈富士の七合目辺りにあるふれあい牧場に到着。
駐車場で牛が屯していますね。
ふれあい過ぎでは。
ふれあい牧場の展望台から見下ろした坂下地区。
奥に見えるのが三原山です。
二つの火山から流れ出た溶岩が接して
直線状の平地が出来ている事が分かります。
この地形を利用して全長2,000mの
立派な空港が造られており、
ボーイング737-800やエアバスA320などの
ジェット機が伊豆諸島で唯一就航しています。
昨日の登龍峠では望めなかった
八丈島全景が見られて満足したら下ります。
と、車に乗り込んだところで
軽トラに乗ったおじさんがやって来て、
「もう帰るの?駄目だよ、戦わなきゃー」
と言われて一瞬困惑しましたが、
どうやら、駐車場で屯していた牛達は
脱走していたようで、
捕まえるのを僕等に手伝って欲しかったんだとか。
いや、船の時間があるので無理です…
さて、いよいよ本題です。
日本で行きにくいとされる島は幾つかあります。
東鳥島や沖ノ島のように
一般人の立ち入りが制限されている島は別にすると、
行き難いとされる事の多い島には
トカラ列島、小笠原諸島などがあります。
これらの島は飛行機で行けないにも関わらず
本土から極めて隔たっていて所要時間が長く、
剰え極端に船便の数が少ない(週1~3便)為、
船の運行スケジュールに合わせて
最低でも1週間程度は予定を空ける必要がある、
という意味で行き難いとされていますが、
船の就航率は9割を超えており、
都合さえちゃんと付ければ意外と行けたりします。
(トカラ列島は宿が非常に少なく、
予約が取り難いという要素もあるので注意。)
しかし、この島はそもそも予定が立てられません。
週4~5便とただでさえ多くない船便が
8月は平均して6割しか就航しないというのです。
という事は、往復とも無事に運航される確率は
4割を切っている事になります。
八丈島からヘリコプターも飛んではいますが、
定員が9人しかなく予約を取るのは至難の業。
僕も予約開始時刻2分前からリダイヤルしまくりましたが、
敢え無く撃沈しました。
まともな社会人ならばとても行く気にはなれません。
実際、YRはチキって直前にキャンセルしてしまいました。
さあ!運命の就航可否決定時間だ!
行けるのか、行けないのか!?
運命や如何に…
神は我に味方した!
8:50発伊豆諸島開発ゆり丸に乗船。
絶海の孤島、青ヶ島に向かいます!
YRとはここでお別れです。
短い再会だった…
本来、八丈島-青ヶ島航路に使われる船はあおがしま丸で、
ゆり丸は伊豆諸島の廃棄物収集運搬船。
あおがしま丸の入渠中だけ、ゆり丸が代理で入ります。
ちょっと遅いので30分余計にかかりますが。
実は、あおがしま丸とゆり丸を運航する伊豆諸島開発は
あのははじま丸も運航しており、
ははじま丸入渠中は父島-母島航路を担います。
どちらも超秘境航路ですね。
出港から3時間ほどして青ヶ島が見えてきました。
黒潮渦巻く太平洋をものともせず屹立する孤高の島。
人の気配が一切感じられない…
フェロー諸島も吃驚の断崖絶壁っぷりだけど、
何処に着岸するつもりなんだろう…
あっ、あんなところに港が!
良く造ったな…
すぐ隣にはコンクリートで塗り固められた
荒々しい大崩落の跡があります。
12:09、青ヶ島三宝港に到着。
快晴!
島の人曰く、青ヶ島が晴れるのは2週間振りだとか。
接岸作業中に3機、戦闘機が頭上を掠めていきました。
何処から来たんだろう…
青ヶ島の島民の人曰わく、
北朝鮮がグアム攻撃計画を発表してから、
自衛隊と米軍が屡々極秘で訓練を行っているそうです。
とすると、硫黄島航空基地か、横田基地か、
はたまたグアムのアンダーセン空軍基地か…
レンタカー屋の人に集落まで送ってもらいます。
青ヶ島は小さな島ではありますが、
集落までの道は文字通り山あり谷ありなので
送迎を頼んだ方が無難です。
三宝港は断崖絶壁の下、
島の他の場所からは隔絶された場所にあるので
三宝トンネルで断崖を抜けます。
嘗ては絶壁に張り付くような道があったのですが、
船からも見えていたあの大崩落によって
完全に閉ざされてしまったそうです。
三宝トンネルを抜けると、
四方を山に囲まれた森の中に出ます。
青ヶ島は世界でも珍しい二重カルデラになっており、
外側の外輪山が内側の内輪山(丸山)を
ぐるっと取り囲んでいるのです。
更にもう一本トンネルを抜けて
再び外輪山の外に出ると集落に着きます。
家の疎らさはトカラ列島の島々と良い勝負です。
青ヶ島一島のみでなる青ヶ島村は
日本一行き難い村であると同時に、
日本一人口の少ない村としても有名です。
(福島第一原発の事故で避難指示の出ていた
福島県飯舘村と葛尾村を除く。)
その人口はたったの165人(平成22年)。
あまりに人口が少ないものだから村民は皆知り合いで、
青ヶ島村には字や番地が存在しません。
島内の住所は全て「東京都青ヶ島村無番地」です。
屋外の机を来島者皆で囲んで
レンタカーの説明を受けます。
ここの道は崩落しているから入るべからずとか、
一般的な注意やちょっとした観光案内など。
その中で一つ青ヶ島ならではだった注意が、
「車を降りる時、鍵は必ず『挿したまま』にして下さい」
というもの。
島民は全員知り合いだから泥棒なんて居ないし、
駐車して邪魔になっていた時に
勝手に退かせるように、との事。
実に平和な島だな…
レンタカー屋を営む家族の母がやっているという
島で唯一の商店、十一屋酒店に入ってみました。
一応商店はあるんだな…
酒店と言ってもホテルではありません。
缶詰類はそこそこの品揃えです。
しかし、生鮮食品は殆どありません。
特に野菜は、ジャガイモと玉ねぎの他は
取り置きしてあるらしいキュウリくらい。
この辺りはグリーンランドと似ていますね。
さて、レンタカー屋の人に早く行く事を勧められたので、
お茶を買ったらまずは山登り。
とても狭い駐車スペース(?)に
軽自動車を捻じ込んで登ります。
暑い…
東京都でありながら足摺岬よりも南にある青ヶ島。
照り付ける日射しは正に南国そのもの。
海からは湿った空気が流れ込んできて
とても山登りをするような暑さではありません。
しかし、青ヶ島に来たからには
ここに登らずには帰れない…!
汗びしょびしょになりながら何とか辿り着きました。
青ヶ島の最高峰、大凸部(おおとんぶ)です!
ここからは外輪山の内側、
池之沢地区を一望する事が出来ます。
おお、これは見事な二重カルデラ。
内輪山はチョコレートソースのかかった
抹茶味のカヌレみたいですね。
そんな事を考えていたらお腹が空いてきたので
宿の人に作ってもらったお弁当を食べます。
日陰が一切無くて暑いですが。
弁当のデザートに生のパッションフルーツを付けるのは
これまた何とも南国らしい。
実を言うと生のパッションフルーツはこれが初めてですが、
ぷちぷちとした種の食感と
暑い夏にピッタリの爽やかな酸味がとても良かったです。
登山道を下っていたらこんな石段を見付けました。
見たところ参道のようだけど…
気になるので登ってみます。
想像より遥かに急だった。
階段というよりは最早梯子に近い傾斜です。
しかも、苔生していて非常に滑り易いです。
這い蹲りながら何とか辿り着きました。
東台所神社という神社だそうです。
佐多岬の御崎神社を思い起こさせるコンクリート造りの社。
やはり台風対策でしょうか。
登ってきた石段。
滑り台にしか見えませんね。
石段によって北側の展望が開けているので、
神社からは集落を俯瞰する事が出来ます。
流石は日本一人口の少ない村、建築物が疎らですね…
今度は集落を回ります。
これは島民全員を収容して余りある広さの運動場を備えた
青ヶ島村立青ヶ島小中学校。
離島あるある。
小中学校の脇に島で唯一の信号機が設置されている。
村役場、診療所、それに図書館が集まった施設。
現在、東京島めぐりPASSPORTという
東京の島嶼を巡るスタンプラリーが開催されているので、
役場でスタンプを押してもらいました。
その時に気付いたのですが、役場の入口には各世帯の新聞受けが。
どうやらここまで新聞を取りに来るようです。
無番地で配達出来ないから?
図書館が開いていたのでついでに見てみます。
郷土資料館も兼ねているようですね。
昭和31年になって漸く電話が通じ、
それによって初めて国政選挙が執り行われた様子など、
青ヶ島ならではの歴史も覗けます。
肝心の図書館業務はと言うと…
理系の本の品揃えが悲しくなるほど少ない。
僕の下宿でさえもっとあるぞ…
天文学の本はまだ揃っている方なのは
星空が綺麗で天体観測に向いているからでしょうか。
今度は集落の南にある尾山展望公園へ。
緑色の塗料が吹き付けられた斜面が見えます。
これは中国式緑化術…
ではなく、水源が殆ど無い青ヶ島に於いて
天水を効率良く集める為に、
水を通さない塗料を塗って集水面としているのです。
東台所神社へ続く道もありました。
急な石段はかなり危ないので、
足に自信の無い人はこちらから参拝しましょう。
そうだ!記念に手紙を出すのを忘れてた。
という事で集落に戻って郵便局へ。
ここでは頼むと風景印を押してもらえます。
絵葉書は郵便局ではなく十一屋酒店で売っているので注意。
さて、半田に届くまで何日掛かるかな。
制限速度30km/h(島内全域)
「島内全域」って結構レアな標識なのでは。
都道236号、青ヶ島本道で外輪山の中に入ります。
気休め程度の中央線が引かれた平成流し坂トンネル。
名前からも分かる通り
このトンネルが開通したのは平成に入ってからなので、
それまではとても細くて急な
流し坂という旧道を使っていたそうなのですが、
何処にその旧道があるのか分かりませんでした。
現道でも相当細くて急ですが。
外輪山にへばりつくような道で下っていきます。
外輪山の中に入りました。
噴火を警戒しているのか、
外輪山の中には民家は一軒もありません。
資材置き場は幾つかありますが。
あと、この中には島庁跡があるらしいんだけど…
打ち棄てられたブランコしか見付かりませんでした。
島庁というのは、
島嶼町村制に基づいて島を管轄した庁舎です。
嘗て、伊豆諸島や小笠原諸島などの離島は
本土のような町村制が施行されず、
府県による直接統治が行われていました。
青ヶ島に普通町村制が敷かれたのは
本土に遅れる事実に51年、昭和15年になってからです。
内輪山の禿げた斜面。
この斜面からは今も熱い火山ガスが噴き上がっています。
内輪山のカルデラ内部。
もっと火口っぽさがあるかと思ったら、
木々が生い茂っていて良く見えません。
ここからは火山ガスが噴き上がっていないのかな?
青ヶ島が再び噴火しないよう
「お富士様」を祀った神社。
その甲斐あってか、1785年以降火山活動は沈静化しています。
折角のカルデラなのでお鉢巡りしようと思ったのですが、
木が生い茂っていて道が不明瞭だったので止めました。
地熱の所為もあって蒸し暑いし、
こんなに爽快感の無いお鉢巡りも珍しいな…
そんな地熱を利用した設備もあります。
この地熱釜は噴出する水蒸気の熱で
様々な食材を蒸す事が出来るとってもエコな蒸し器。
そしてこちらは青ヶ島ふれあいサウナ。
青ヶ島に於いて観光施設と呼べる唯一の建物。
内輪山の地熱を利用した、これまたとってもエコなサウナです。
山に登ってかいた汗を流します。
受付のおじさんの訛りが強過ぎて
何を言っているのか全く理解出来ない…
開いたばかりで貸切状態のサウナにいざ突入。
熱い!
サウナっていうかそこに至るまでの床がもう熱い!
凄まじい地熱エネルギーです。
耐えましたが、1分が限界でした。
後から同年代の人が2人入ってきたので話してみたら、
何と向こうも東大院生でした。
秘境での東大生遭遇率は異常。
集落は外輪山の外にありますが、
島唯一のキャンプ場は外輪山の内側、
青ヶ島ふれあいサウナのすぐ傍にあります。
こちらではフランス人カップルがテントを張っていました。
フランスからどうやって青ヶ島の情報を得たのだろう…
暗くなる前に集落に戻ります。
夕暮れ時の青ヶ島ヘリポート。
冬期には半分以上欠航する事も珍しくないフェリーの補完として、
八丈島からヘリコプターが就航しています。
朝に1便あるのみなので
夕方の今は子供達の遊び場と化していました。
平和だ…
この農具置き場みたいな建物が
ヘリポートの旅客ターミナルです。
日本一しょぼい航空ターミナルではなかろうか。
日没を拝むべく、
ヘリポートの先にある金比羅神社を目指します。
この藪に覆われた道が参道なんだろうか…
例のフランス人カップルもついてきました。
本殿がありました。
鳥居は今年の2月に建て替えられたばかりで真新しいです。
でも、ここからでは全く日は見えないな…
という訳で更に進みます。
意外にもちゃんと整備されていますね。
この分だと週一くらいで手入れされていそうです。
視界が開けた!
これは絶景だな…
これだけの眺望なのに観光地図に全く記載が無いのは
島の人達が秘密にしておきたいからなのかな?
滔々と流れる黒潮に日が沈む…
海からの水蒸気で日がぼやけていますね。
宿に戻って夕食。
「ビジネスの宿」と名前に付いていたので
食事はあまり期待していませんでしたが、
何と特に頼んでいなかったにも関わらず島寿司が出ました。
島寿司に、魚の素揚げに、刺身に、鶏のつくねという
タンパク質のオンパレードな献立です。
野菜が入手し難いからタンパク質で補うんだろうな…
人口が日本で最も少なく、
しかも隣の八丈島まで60kmという青ヶ島は
日本屈指の暗い夜が有名。
しかも今日は快晴となれば
宇宙の研究をする者として天体観測しない訳にはいきません。
ライトを消したら1m先も良く見えないような闇の中、
尾山展望公園を目指します。
道が入り組んでいて分かり難い…
ちょっとした肝試し気分です。
尾山展望公園では3人が星空を眺めていました。
おお、見事な天の川!
僕等は宇宙に浮かんでいるんだな…
三脚含め天体撮影用の器具を何一つ持っていないので、
地面にカメラを置いて
露光時間や感度を調整しながら撮りました。
結構ノイズが酷いな…
まあ、星空は自分の目で見るのが一番ですね。
秘島青ヶ島を丸ごと満喫して大満足の一日でした。
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