話は昨日の夜から始まります。
23:30、期末試験が目前に迫っているというのに、
平生の就寝時刻を1時間も過ぎて僕は北千住駅に居ました。
人を待つ為でありました。
程無くして現れたFK(成岩中)。
これで用事が終わりかと言えばそんな筈は無く、
家路を急ぐ人々を横目に
生温い風が漂う深夜のホームに立ち尽くす2人。
同じ様にホームに屯する人々。
日付も変わった0:06、
蒸し暑い暗闇を切り裂いて
定刻通りにそれは姿を表した。
尾瀬夜行23:55―
日本で2番目の路線網を持つ東武鉄道が誇る
現在、日本の私鉄で唯一の夜行列車。
乗ります。
…乗ります!
こんな蒸し暑い東京にはおさらばだ!
明日が試験など知った事では無い!
やりたい事をやりたい時にしなくて何が大学生だ!
…持ち込み可の超簡単な試験なので
もう一日も勉強する事が無いですし。
0:10発尾瀬夜行23:55会津高原尾瀬口行きに乗車。
東京より10℃涼しい別天地を目指します。
尾瀬夜行車内。
現在の日本では数える程しか残っていない夜行列車。
ムーンライトながらのように利用者の多い区間を走行するか、
北斗星のように移動そのものを優雅に演出するか、
七つ星のように乗る事そのものを旅行として売り出すか、
何かしらの売りが無いと生き残れないのですが、
この尾瀬夜行は利用者がそんなに多い区間でも無く、
車両は優雅とは程遠いどころか
リクライニングさえ出来ないという
高速バス以下の快適性。
そんな尾瀬夜行が何故生き残っている
(というか、寧ろつい最近作られた)のか。
それはこの列車が列車の乗車券単体では無く、
尾瀬へのバスや山小屋の宿泊がセットになった
ツアーとしてのみ販売されており、
高齢化によって人口が増したハイキング客に
ターゲットを絞って売り出しているからなのです。
しかし、この乗車率では先行きが危ぶまれますが…
女性専用車両(最後尾6両目)は結構混んでいました。
女性専用車両の方が混んでいるという稀有な例。
越谷と春日部に停車した後はひたすら北に走ります。
携帯枕とアイマスクを駆使して何とか寝ます。
3時過ぎに会津高原尾瀬口駅に到着。
3:50頃にバスに乗り換えるよう放送があります。
幾ら日本第2位の私鉄とは言え、
この尾瀬夜行の運行距離は180km足らず。
名古屋-静岡よりも近い訳で、
始発駅から3時間半もしない内に着いてしまうのです。
3時間睡眠はキツい…
ただ、このバスが結構長い。
何と2時間もあるのです。
そんな訳で、もう2時間寝られます。
6:05、御池駐車場に着きました。
バスは更に先の沼山峠まで行くのですが、
僕達はここで降ります。
沼山峠からだとハイキング気分で尾瀬沼を楽しめますが、
御池からだと基本ガチ登山になる為、
ここで降りる人は少ないです。
いざ、尾瀬の山へ!
暫くは歩き難い急な坂を登ります。
湿原で知られる尾瀬らしく(?)
まるで雨でも降っていたかのように水浸しです。
登山靴を履いてきて良かった。
登り切ると開けた場所に出ます。
広沢田代です。
何とも尾瀬らしい爽快な景色。
気持ち良い風を感じながら
目の前に聳える燧ヶ岳に向かいます。
木の踏板が単線化しました。
タブレット閉塞不可避。
広沢田代を下に見下ろしつつ登ります。
再び湿原に出ました。
熊沢田代です。
美しい…
心が洗われるようだ…
ここから山頂に向かって最後の登りです。
7月下旬の尾瀬は花の季節。
か弱い高山植物が短い尾瀬の夏を謳歌しています。
涸れ沢再び。
涸れ沢は岩がゴツゴツしていて歩き難いんだよな…
あの白いものは…雪渓!?
7月下旬の、しかもこんな直射日光が当たる位置に…
久し振りの雪渓歩きが出来ました。
道がぐちゃぐちゃだったのは
湧き水じゃなくて雪融け水が原因だったのかな?
雪渓を越えると涸れ沢も終わり、
いよいよラストスパートとなります。
大分登ってきたんだな…
あともう少し!
着いたー!
燧ヶ岳俎ぐら(標高2,346m)です!
日本百名山。
遥か下に尾瀬沼が見えます。
約8,000年前に山体崩壊で出来たそうです。
五色沼と言い、福島県の湖沼は火山絡みが多いですね。
尾瀬沼と反対側。
人の気配が一切感じられません。
それもその筈、この燧ヶ
岳がある福島県檜枝岐村は
全国1,741の市区町村の中で
最も人口密度の低い自治体なのです。
何と1.58人/km2。
あの秘境十津川村でさえ5.41人/km2ですから
如何に人が居ないかが分かります。
燧ヶ岳の最高峰は俎ぐらでは無く
その隣の柴安ぐらなので、再び歩きます。
柴安ぐら(標高2,356m)。
東北地方の最高峰であり、
以北の日本にこれより高い山はありません。
今、僕は東北・北海道で最も高い位置に要る男です。
東北・北海道で最も高く昼食をとります。
尾瀬ヶ原が見えます。
美しい…
残念ながら、今回は時間の都合上尾瀬ヶ原には行けません。
…結構時間が怪しくなってきたな。
急がなければ。
一頻り感動したら下山します。
尾瀬沼目指して下っていきます。
ミノブチ岳。
俎ぐらと柴安ぐらを仰ぎ見る。
ここを過ぎると展望は殆どありません。
ひたすら己との闘いです。
あと、泥濘状態の登山道との戦いでもあります。
ぐちょぐちょに濡れています。
歩き難い…
FKの靴がすっぽ抜けたりしました。
バスの発車時刻が刻一刻と迫り、
水も使い切って絶望感が出て来たその時。
尾瀬沼だー!
長かった…
時間的には登りの方が長かったけど、
精神的には下りの方が遥かに長かった…
ビジターセンターの水場で一休み。
水が冷たくて美味しい!
尾瀬沼ではニッコウキスゲが咲き誇っています。
しかし、のんびりしていられません。
バスの発車時刻が迫っているのです。
おばさんおじさん軍団や山ガールを追い抜かし
震える脚に鞭打って歩く事45分。
着いたー!
バス発車時刻10分前でした。
危ない危ない…
尾瀬沼山峠14:10発のバスに乗車。
行けども行けどもひたすら山ばかり。
時折、思い出したように集落が現れます。
一体どういう暮らしをしているのだろう…
奥鬼怒と言い、福島-栃木県境近辺は
現世から隔絶されている感があります。
2時間程走って会津高原尾瀬口駅に到着。
まずこの駅の時点で相当な山奥ですね。
区間快速浅草行きとか来たりしますが。
程無くやって来る区間快速浅草行きに乗れば
北千住まで乗り換え無しで行けますが、
泥だらけの登山道をひたすら歩いてきたので
温泉でも入って帰ろうという話に。
会津高原尾瀬口駅から徒歩5分程のところに
尾瀬夜行利用者の入湯料が割引される温泉があったので来ました。
登山者やら地元の人やらでとても賑やかな温泉。
こういう場では人と人との距離が縮まりますね。
17:25発野岩鉄道普通新栃木行きに乗車。
懐かしの龍王峡やら何やらを見つつ走ります。
新栃木駅で19:32発東武日光線普通南栗橋行きに乗り換え、
南栗橋駅で20:11発東武日光線急行中央林間行きに乗り換え、
20:58、北千住駅に到着しました。
衝動に負けて行った山。
欲望の赴くまま訪れて本当に良かった。
試験前日に行くだけの価値は十二分にありました。
東北最高!
…明日の試験も頑張らねば。
脚注
※「俎ぐら・柴安ぐら」
「ぐら」の漢字は山かんむりに口3つですが、
teacupブログでは正常に表示されないようです。
コメント
ああ~、いいっすね~。
こんなに広々とした緑があると野球したい、野球したくない?
うん、知ってる。
にしても、湿原ってどうやって成り立ってるのかな?
水を大量に含んだドロドロの泥炭を植物の根が固定しているんじゃない?
良く知らないけど。